こんにちは!
RAGTAG神戸店の森本です。
「読書の秋」とはよく言われますが、私は季節問わず読書、特に小説が好きだったりします。
作家のフィルターを通して創造された世界に身を置くのが楽しいのです。
そんな小説の世界でも、洋服の話は欠かせません。
例えば村上春樹。今年もノーベル文学賞を逃してしまった彼ですが、彼の作品の中では女性の服装についての描写が異様に詳細だったりします。
彼の代表作『スプートニクの恋人』では、「すみれ」と「ミュウ」という対照的な二人の女性が登場します。
「すみれ」は、作家を志す22歳の女性で、小説家になるために大学を自主退学し、親の仕送りで生活している、いわゆる「未熟な」女性。
彼女の服装は、ニットの袖口に毛玉がついていたり、スカートの丈があっていなかったりと、いつもちぐはぐなのです。
周りと比べて少し「浮いている」そんな服装は、社会に溶け込めない彼女の存在の比喩でもあり、彼女の結末を予感させるものでもあるとさえ感じられます。
一方「ミュウ」は、39歳の女性で、会社を経営するなど社会的な成功を収めています。
そんな彼女の服装は「黒いパンツスーツに白いブラウス」、「シルバーのピアス」など、整った服装をしています。
彼女は社会的に成功した「大人の」女性であり、すみれとは逆に、社会に適応した側の人間。
ただ、彼女のそんな服装には、一種の空虚さを感じさせ、それは彼女のバックグラウンドとも関わっているようにも思えます。
このような服装についての詳細な描写は、この作品のテーマでもある「自己喪失」「存在の不確かさ」とも密接に関係しているように思えてなりません。
ここまで全部妄想ですが。妄想を膨らませるのが読書の醍醐味です。
もう一人。少し時代を遡って太宰治。我らが太宰治です。(私は三島由紀夫派ですが)
彼の短編『おしゃれ童子』。いかにもおしゃれそうなこの作品。
この作品では子供のころから並外れた熱意で装いをこだわりぬいてきた主人公の少年期から青年期までの姿を抱いています。
ただ、彼の洋服に対する熱意は、誰にも賞賛されないばかりか、顔を背けられてしまう結果にも陥ります。
そんな理不尽な仕打ちを受けた少年はどうなってしまったかというと、とんでもなくグレてしまい、やけくそになってしまいます。
尋常じゃない何かへのこだわりは、時に理解されず、冷笑の対象になってしまう。
これは現代にも言えることかもしれませんね......。
この作品は1939年に執筆されたものですが、86年前に人間のこのような側面に注目し、自嘲的に描いているのは、さすが太宰治だと言わざるを得ません。(私は三島由紀夫派です)
この作品は青空文庫で読めるので、ご興味持たれた方はぜひ読んでみてください。
とんでもない前置きになってしまいましたが、そんな尋常じゃないこだわりがつまったシャツを一着、紹介させてください。
CASEY CASEY/BIG RACCOURCIE SHIRT/¥29,800(税込)/サイズ M
長袖シャツの決定版ともいえるシャツです。
シルエットにはゆとりがあるのですが、どうやらいわゆるビッグシルエットというわけでもなさそうです。
肩幅は一般的なシャツのそれなのですが、身幅、袖丈とのバランスが絶妙で、独自のサイズバランスが実現されています。
袖丈はドレスシャツに近く、手首よりも少し下で収まり、肩幅に対して少し広く取られた身幅は、裾にかけて徐々に広がっていきます。
ディテールは計算されているのに対し、カフスや襟には芯は入っておらず、気の抜けた印象です。
また、首周りも少し広めにとられており、スカーフなどのアクセントが取り入れやすくなっています。
こんなこだわりが詰まり切ったシャツを着てしまうと、『おしゃれ童子』の主人公のように、冷笑されてしまうかもしれませんね。
ただ、そういうこだわりの部分に「粋」さが出ると思います。
一見すると変哲ないシャツですが、このただならぬ雰囲気は、服装に無頓着な人とは到底思えません。
皆さんも太宰治のように、ファッションに対する自分の美学を持ち続けましょう。
神戸店には、他にも尋常じゃないこだわりが詰まった服がたくさん並んでいます。
短い秋の季節ですが、全力で秋服を楽しみたいですね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

