STORY
あの服、あの人、
あの瞬間。
お客様に、ファッションをもっと楽しんでいただきたい。
その想いで店頭に立つRAGTAGスタッフたちが出会った、
忘れられない瞬間。

TOKUYAMA
ルクアイーレ店 / バイヤー
思い出をまとって、
旅する一着


KUZE
WEB買取チーム / バイヤー
どうすれば、お客様を
もっと素敵にできるだろう?



TOKUYAMA
ルクアイーレ店 / バイヤー
思い出をまとって、
旅する一着
「たいへんお待たせいたしました」
買取査定を終えた徳山は、商談テーブルを挟んでBさんの前に腰かけた。
これまでに数多くのお買い取りを行ってきたが、そこには密かな愉しみがある。洋服や小物のブランドや年代やシルエットを見て、状態を見る。すると、どんなお客様なのかが、おぼろげに浮かび上がってくる。たとえば、カットソーの袖のほころび具合からして、左利きかもしれない……と予想する。徳山にとって商談は、答え合わせのような場でもあるのだ。
だが、このときはちょっと違っていた。Bさんが大きなカバン2つを抱えて持ち込んだのは、コムデギャルソンのジャケットやパンツやスカートだ。それも、ウィメンズとメンズが約半分ずつ、合わせて19着もの洋服だったのだ。
*
たとえ1着であっても、そこにはお客様の歩んできた時間が刻まれ、なによりも思いがこもっている。だから、単に買取金額を伝えるのではなく、洋服にまつわる思い出を共有させてもらい、手放すことになった事情をお聞きした上で、次のお客様へと大切に引き継ぎたい。そう徳山は考えている。
「コムデギャルソンをお好きで、ずっと長い間お召しになっていらっしゃったのですね?」
「ええ。次に着てくれる人がいればいいなって思ったんです。着てあげる機会がないと、お洋服たちがかわいそうだから……」
「メンズもたくさんありましたね」
徳山の言葉に、小さく息を吐いたあとで、Bさんはこう答えた。
「じつは、昨年、主人を亡くしましたの。ペアで着ていた私のもそうだけど、おうちに洋服があると、思い出してつらくなってしまうから。でも、捨ててしまうのも、なんだか違うんじゃないかって」
*
最初は友人の紹介で来店したBさんだったが、それ以来、徳山を指名して毎月のように足を運んでくれるようになった。洋服を手放して気持ちの整理がついたせいか、Bさんは明るい口調で、いろんな話をしてくれる。
コムデギャルソンに馴染みの店員がいて、夫婦一緒によく買い物に行っていたこと。お孫さんが高校生の男の子でまだファッションには目覚めていないが、ご主人の遺した洋服をいつか着てほしいと数着だけ保管していること。そして、ご主人と訪ねた海外各国での思い出を聴きながら、徳山はふと思った。
ここ数年増えている海外からのお客様が、Bさんのお売りいただいたコムデギャルソンを購入するかもしれない。お二人の思い出をまとった一着一着が、また世界を旅するのだ。


KUZE
WEB買取チーム / バイヤー
どうすれば、お客様を
もっと素敵にできるだろう?
久世が働いていた渋谷店には毎日、数百人のお客様が訪れる。下は10代から上は70代80代という年代も、瞳の色や話す言語も、身にまとった洋服や小物も、じつに多種多様だ。宝探しをするように店内を回る姿に、こちらもワクワクしてしまう。
Aさんとの出会いは、肩から提げていらっしゃった、見たことのないシャネルの小物がきっかけだった。
「こちら、とっても素敵なバッグですね!」「あら、そう? 嬉しいわ!」
おそらく当時60代後半、大きめの帽子とジャケットに、フワッとしたスカートの組み合わせは、ココ・シャネルを彷彿させる。
「これ、自分でつくったのよ。お洋服はほとんどシャネルなんだけど、バッグは高くてなかなか買えないから、ポーチを買って、こうやってチェーンを付けてみたの」
*
久世もまた、洋服を手作りしてくれた母親の影響もあり、服飾学校で生地やハサミや針に触れてきた。Aさんとは初対面のときから意気投合し、かれこれ15年もお付き合いが続いている。
「こんどまた韓国に行くから、いいお洋服はないかしらって、寄ってみたの」
「あ、BTSのライブですよね! だったら、うんと素敵にキメていきましょうよ」
ご年齢を感じさせることなく、推し活も旅行もファッションも愉しむAさんは、久世にとって憧れでもある。40年後50年後、自分もこんな素敵なおばあちゃまでいられたらいい。
*
どうすれば、Aさんにもっともっと喜んでいただけるだろう?
自分のちょっとした提案で、お客様のファッションの可能性を広げられるのも、この仕事の醍醐味である。シャネルの中でも体型の出にくいゆったりめのシルエットで、カラーも黒を好んで着ていたAさんに、このスカートはとても似合うに違いない。ウエストはやや大きめだが、サイズのお直しをすれば、ピッタリとキレイに着ていただける。
「えっ? コムデギャルソンって、1度も来たことないのよ。でも、久世さんが言うのなら、挑戦してみようかしら」
「はい! ぜひお試しくださいませ」
数日後に来店したAさんは、こぼれそうな笑顔でこう言った。
「これ、お気に入りのポーチにも合うし、着心地もすごくいいわ。ありがとう!」
久世が勧めたスカートには、シャネルのブローチが輝いていた。