【福岡談義 STAFF:KAIEDA・MURAYAMA】 "エイズT "をめぐる対話録

みなさん、こんにちは。
今回は新たな試みとして、
対話形式のブログとなります。
どうぞお楽しみください。

福岡談義とは...
福岡店のスタッフ達が、デザイナーによって生み出された「作品」について。
各々の自由な解釈で、その作品を見て「何を感じたのか」「何が魅力なのか」について語り尽くします。

今回、私、海江田と「マルタンマルジェラ」を敬愛する村山と共に、"エイズT "の「魅力」を掘り下げていきます。
ファッション史
(※画像のモノは全てスタッフ私物)

K:それでは村山さんよろしくお願いします。

M:よろしくお願いします。

K:早速なんですが、村山さん。
"エイズT "は持っていますか?

M:持ってますよ。
94年秋冬のモノと95年春夏のモノを持ってます。
 マルジェラの美学
(※スタッフ私物)

K:やはり、お持ちなんですね。
RAGTAG福岡店のメンズスタッフは皆、持っていますよね!

K:ちなみにこれまで、"エイズT"は、毎シーズンカラーやディテールを変え発売されてきましたが、村山さんは「なぜ、94年と95年のモノ」を選ばれたんですか?

M:1番の決めては配色ですね。あとは全体の雰囲気。
初期の90年代までのモノは、ネックのリブが極端に細く、作りがチープでかなり安っぽいんです。
ただ、私はこちらの方が好みです。
ちなみに、1994年秋冬〜2000年秋冬の"エイズT"シャツには「T」と「SHIRT」の間に「・」がつくんですよ。
マルジェラの哲学
(※スタッフ私物)

K:なるほど。確かにリブの細さで印象が違いますね。
リブが細いと「ブランドの服」といよりは、「肌着」のような印象で、より親近感がありますね。
気がつきませんでした!年代ごとに、ディテールも異なってるんですね!「男心」くすぐるポイントですね!

K:ところで村山さん。
"エイズT "には胸元に「文字」が書かれていますが、何と書かれているかご存知ですか?
マルジェラ Tシャツ

Maison Margiela/¥9,200(税込)/サイズ:XL オンラインショップで見る

M:「エイズと闘うためにすべき活動はもっとあるが、このTシャツを着ることは良い始まりだ。」

K:さすがです。即答ですね。
たしか、"エイズT"を購入すると、売上の一部がHIVとエイズの撲滅、患者へのサポートとして寄付されるんですよね?

M:そうです。

K:まさに、"チャリティーTシャツ"ですね。
ですが、もし仮に、"エイズT "が「エイズ問題に対しての意識啓発・情報発信」を目的に作られたとするならば、少し不思議に思う点があるんです。
実際に着用すると、首元に書かれた「文字」は隠れてしまいますよね?
そうなると、周囲の人からは胸元の「文字」が見えなくなってしまい、結果として「メッセージ性」が失われてしまうんじゃないでしょうか。
マルジェラ 考察
Maison Margiela/¥8,400(税込)/サイズ:Ⅿ オンラインショップで見る

M:そうなんです。
"エイズT "は着用すると「文字」が読み解きできなくなるんです。
なので、着た人が「自分の言葉」で他の人に「この文字の意味(メッセージ)」を伝えることで、初めて「意味」を持つというコンセプトを秘めている、と長きに渡り語り継がれてきました。
ですが、私は「それだけ」ではなく、もっと深い別の「メッセージ」が秘められているのではないかと思ってます。

K:というと?

M:これは私の考察ですが、このTシャツは「ポリティカル・アート」という表現手法を用いて製作されています。
「ポリティカル・アート」というのは、文字の配置やメッセージを使って、鑑賞者に「フェミニズム」や「消費主義」「欲望」といった社会への違和感を感じさせたり、考えさせたりする社会批評的な芸術表現のことです。

M:つまり、この作品も我々消費者に問いを投げかけることを前提に作られた作品であり、いわば思考を促す服だということです。
その「問い」を独自の解釈で読み解くことで、この作品の「魅力」をより深く味わえるのだと思います。
マルジェラ エイズT
Maison Margiela/¥8,400(税込)/サイズ:S オンラインショップで見る

K:奥が深い...そしてもの凄く難しいですね...
村山さんであれば、どう読み解きますか?


M:まず、この作品を理解する上で重要となる観点は2つあると思ってます。
1つ目は、「HIVやエイズ問題について、時代を遡りながら深掘りすること」です。世界的にHIVやエイズが流行った年はいつなのか。
当時、世界では「何が起こっていたのか」を紐解くことが理解の鍵になります。
2つ目は、「なぜ、94年秋冬のシーズンに発表されたのか、そして、94年秋冬のコレクションのショー形式がどのようものだったのか」という点です。

M:この2つを踏まえ、紐解いていくと、マルタンがこの作品を通して「伝えたかったこと」がより明確になると思います。

K:なるほど!
まずは「当時の時代背景を知る」ことが大事で、次に「そのシーズンのコレクション」を深掘りしていくということですね。
よし、早速調べてみます!

ラグタグ マルジェラ
Maison Margiela/¥16,800(税込)/サイズ:S オンラインショップで見る

K:村山さん!
調べたところ、
HIVやエイズは、1980年代の初めに流行し始めたそうです。
当時、世界各地で「チャリティー音楽イベント」が開催され、これに伴い、寄付や啓発の手段としてTシャツが用いられるようになり、"チャリティーTシャツ"が誕生したみたいです。

K:そして、90年代に入ると、HIVやエイズは世界中に広がり、パンデミックを引き起こしたみたいです。
このとき、"チャリティーTシャツ"は、「私は社会問題に共感してます」という意思表示のツール、言わば「意識の高さをアピールするアイテム」としてブーム化したみたいです。
その結果、"チャリティーTシャツ"は大量生産、大量消費されるようになり、「流行の服」「かっこいい服」というファッショナブルな側面が強くなってしまったようです。

M:なるほど。
つまり、資本主義(消費社会)によって、"チャリティーTシャツ"がもつ本来の目的(イデオロギー)は希薄になり、「流行の服」「かっこいい服」として消費されるようになったと。
確か"ヒッピームーブメント"なども資本主義に飲み込まれたことで形骸化し、その結果、終息を迎えることになりましたよね。それと同じだ!
エイズTシャツ

Maison Margiela/¥8,400(税込)/サイズ:S  オンラインショップで見る

K:おっしゃる通りです!
つまり、"エイズT"は"チャリティーTシャツ"の『そもそもの"存在意義"』を問い直す作品なのではないでしょうか?
本来、"チャリティーTシャツ"は「支援」「意識啓発」「情報発信」を目的とし作られたはずです。
ところが、「流行ってるから」「売れるから」という理由で大量生産されるようになり、本来の意味や目的は忘れ去られていった。
消費者である私達も、その背景や本当の意味を深く考えることなく、ただ「ファッション」として消費してしまっている。

そこで、マルタンはTシャツを通じて、『なぜ、あなたはそれを身に纏っているの?』という問いを突きつけ、消費者に考えさせる。
"エイズT"には、我々「消費者」と「消費社会」全体に向けられた、アンチテーゼ的な「メッセージ」が込められていると、僕は感じました。

M:私も全く同じことを感じていました。凄く噛み砕いて言えば、

『あれ、"チャリティーTシャツ"って、そもそも何のため
 にあるんだっけ?』
『私たちは、何をしないといけないんだっけ?』
『購入して、身に纏えばいいんだっけ?』

と静かに問いかけてるみたいな。
だからこそ、彼は、"エイズT "を"チャリティーTシャツ"が既にブーム化していた、1994年に発表したんでしょうね。
エイズT考察
(※全てスタッフ私物)

K:ええ。まさに大量生産、大量消費のブーム真っ只中ですからね。
皮肉を込めた挑戦的な反抗だったんでしょうね。

M:さらに言えば、"エイズT "が登場した1994年秋冬コレクションは、ショーの形式自体が特殊だったんです。
世界6つの都市「パリ」「東京」「ドイツ」「ボン」「ミラノ」「ニューヨーク」の9つのブティックで同時多発的にショーが行われるという形式。
しかも、その多くは、当時HIVやエイズによる衝撃を最も強く受けていた都市だったんですよね。
だからこそ、"エイズT "には「チャリティーTシャツの"存在意義"を考えさせる装置」という裏コンセプトが秘められていたと思います。

マルタンマルジェラ エイズT
K:いや〜、さすが村山さん。本当にお詳しいですね。
「世界各国での同時多発的なショー」という形式自体が、まるで「HIVやエイズの世界的な広がり」を示すと同時に、「世界的なチャリティーTシャツの大量生産・大量消費」をも象徴しているようで、とても興味深いです!

M:実は、私が1番「興味深いな」と感じた点がまだあるんですが...お話ししても良いですか?

K:ぜひ!お願いします!

M:"エイズT "に魅力を感じる人は多いかと思うのですが、その「意味」をちゃんと理解した上で買う人もいれば、買ったあとで「実はこういう意味があるんだ」と知る人もいますよね。

K:はい。

M:でも、その「買って、身に纏う」という行為自体が、強烈な「アイロニー」を生んでいるんです。

K:え!!?

M:先ほどもお話しましたが、チャリティーTシャツが「カッコいい服」「流行のアイテム」としてブーム化していた時代に、"エイズT "は登場しましたよね。
つまり、"エイズT "を「買う」という行為は、自動的にそのブームの歯車の一部となることを示し、それを身にまとうことで、逆に批判の対象にもなり得るという、そんな逆説的な構造を持っているのです。
エイズT 初期
(※着用のモノはスタッフ私物)

Ⅿ:要するに、本来の意図と実際の行為のあいだにズレが生じている。
分かりやすく言えば、「サステナブルを訴えながらも、本人は大量生産の象徴である、ファストファッションを身に纏っている」みたいな。

マルジェラ歴史
(※着用のモノはスタッフ私物)

K:なるほど!!
"エイズT "を買ったり身に纏う人は、本来の意図(支援・啓発)とは別に、ブームや消費文化の一部として見られることがあり、着る人自身が批判される可能性があると。
つまり、「消費行動と意図の間に矛盾が生じている」ということですね!
いや〜、実に興味深いです。

K:改めて考えると、マルタン・マルジェラって本当に天才ですよね!
今、鳥肌が立ちました。

M:ええ。天才であり、同時に鬼才です。
とてつもなく、深い領域でクリエイションをしているからこそ、唯一無二の存在なんです。

K:だからこそ、マルジェラは「評価」され続けているんですね。
「ブランド」というより、むしろ「デザイナー」に対する理解が深まりました。
作品を表面的に見るのではなく、その背後にある「時代背景」や「経緯」を理解することで、目の前の作品が「どのように再構築されたものなのか」が見えてくる。
そして、この視点を元に自分の言葉で「言語化していくこと」が大切なのだと、今回の談義を通じて実感しました。

マルジェラ アーティザナル
M:本当に大切ですよね。
これは「服」に限らず、あらゆるジャンルに共通することだと思います。
僕らが知っている「有名なモノ」って、結局は「すでに誰かが評価したモノ」ですよね。
ではもし、今自分が関心を寄せている対象が、「全くの無名で、何の情報もなく、誰からも評価されていなかった」としたら、果たして本当にそれに興味を持っていたのか?
それは誰にも分からないことです。

M:だからこそ、この時代においては「自分はどう感じたのか」「何に魅力を感じたのか」を、自身の言葉で言語化することがとても大切なのだと思います。

マルジェラの脱構築
K:深いですね。今のお言葉心に響きました。
本当にありがとうございました。

M:こちらこそ、ありがとうございました。

K・M:今回、ご紹介させていただいた"エイズT "は福岡店、またはオンラインショップにて販売しております。
ぜひ、福岡店でお試しください。ご興味ある方はお早めに!

Maison Margielaのアイテムはこちら