CLOSET ファッションを楽しむためのWEBマガジン CLOSET ファッションを楽しむためのWEBマガジン

BUYER'S VOICE RAGTAGバイヤーのファッション偏愛をお届け!

RAGTAGスタッフもお客さまと同じくらいファッションが大好き。
このコーナーでは、豊富なファッション知識を持つバイヤーたちが、
自ら偏愛するブランドやアイテムをご紹介します。

私の好きなブランド、あのアイテム

TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.
“孤高のデザイナーが創るリアルクローズ”
バイヤーのファッション偏愛

なんばパークス店 店長 NAKAMURA

■孤高の天才「宮下貴裕」

なんばパークス店 NAKAMURA ポンチョのスタイリング

[TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.(以下、ソロイスト)]のデザイナー、宮下貴裕氏。彼は「ネペンテス」で企画・プレスを経験しながら、独学でモノづくりのスキルを身に付け、1996年に20代半ばで独立し、ブランド[NUMBER (N)INE(ナンバーナイン)]を立ち上げます。ネペンデス時代から、独特の感性とファッションセンスは特別なものがあったと聞きます。また独学でモノづくりを学び、成功したデザイナーは、国内どころか世界を見渡してもごく少数です。
[ナンバーナイン]では、流行を気にせず、自分の創りたいもの・良いと思うものへのこだわりが強く、革新的なスタイルを世に放ちました。それは自身の好きな音楽・映画のカルチャーにフューチャーし、ロックの要素を大胆にファッションにリンクさせるスタイルをベースに、彼自身が大事にしている、洋服本来の着心地や楽しみのエッセンスを、独自のフィルターを通してデザインに落とし込むというものでした。かの有名デザイナー「エディ・スリマン」が、細身のロックスタイルで[Dior Homme(ディオールオム)]にて成功を収め、メンズファッション界に多大な影響を与えたのが2001年ですが、宮下氏は彼よりも早く、ロックスタイルをファッション業界へ放っていました。
またメディアなどへの露出を嫌い、宮下氏の写真や対談などはごく少数しかリリースされていないことも有名な話です。まさに「孤高の天才」と呼ぶにふさわしいデザイナーです。

■「NUMBER (N)INE」解散から「TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.」へ

なんばパークス店 NAKAMURA デニムのスタイリング

その後[ナンバーナイン]が成功するにつれて、商業的観点や自分の表現したい事に制限がかかることなどに嫌気がさし、人気絶頂の中ブランドの“解散”を発表します。そして手がけてきた有限会社クークスが、[ナンバーナイン]商標を用いて販売することとなります。現在も[ナンバーナイン]というブランドは続いていますが、宮下氏は一切かかわっていません。
そして2010年、有限会社ソロイストを設立。ブランド[TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.]を始動します。 特徴は、[ナンバーナイン]の軸であった「映画」や「音楽」の要素を感じさせつつ、より宮下氏が表現したいものが、繊細かつ職人気質に、1点1点徹底的に作り込まれていること。以前よりも素材やパターン作りと縫製技術にこだわられており、それに乗じて販売定価も上昇しました。
「Cody Sanderson」とのコラボや、「ポンチョ」、「パジャマシリーズ」など、[ソロイスト]ではアイコニックなアイテムが増え、またウエスタン要素を大胆に取り入れるなど、より宮下氏のバックボーンに忠実になっています。レイヤードスタイルを主体とする、独自の世界観を表現できている点は[ナンバーナイン]を遥かに凌駕し、他のブランドを寄せ付けない、強いアイデンティティーを感じさせてくれます。

■名品“ホースライディングジャケット”

ここからは、実際に[ナンバーナイン]と[ソロイスト]の過去のリリースアイテムを比較しながらご紹介させていただきます。 ソロイスト ホースライディングジャケットホースライディングジャケットは、[ソロイスト]のファーストコレクション2011年秋冬より、複数のシーズンでリリースされているアイコンアイテムです。構築的で、着心地と動きやすさ、デザイン性を兼ね備えた、言わば“芸術品”。こちらの1枚は2012年春夏にリリースされた1枚です。 ソロイスト ホースライディングジャケット ラペルとポケットアウトシーム仕様に仕上げ、肌へのストレスを軽減させるために、2枚のレーヨンの生地を重ね縫い合わせ、1枚の生地に仕上げてから仕立てられており、さらにシーム部分をほつれ加工にすることで、経年変化を楽しむことができます。レーヨン独特の光沢感により 、軽やかで洗練された印象を与え、滑らかな質感で肌触りも良く、気兼ねなく着用していけます。 ソロイスト ホースライディングジャケット サイドポケット またポケット部分には、コットンガーゼに近い柔らかい質感の物が使われ、肌へのストレスはもちろん、生地の重みでシルエットが崩れたりしないよう配慮がされています。腕周りは立体的なシルエットと動きやすさを実現させるため、視覚的にも面白味のある多面体構成で、職人気質かつアーティスティックな1枚に仕上げられています。

ナンバーナイン コットンガーゼ ジャケット 比べてこちらは[ナンバーナイン]時代、2001年春夏コレクション「TIME MIGRATION」の1枚。 ナンバーナイン コットンガーゼジャケット ほつれの様子 ディティールを見るとまさに「ホースライディングジャケット」の原点ともいえる1枚です。裏地を用いることなく、コットンガーゼ2枚を1枚に縫い合わせ、アウトシーム仕様で構築。コットンガーゼを使うことで、通気性と肌へのストレスを軽減さえる上に、軽量で長時間の着用も負担になりません。ラペルなどには、間に薄くて軽い芯材を最低限用いて形をキープしていますが、そこも敢えて大き目につなぎ合わせ、ほつれ加工を施し、芯材までもデザインのアクセントにしています。またピークドラペルで構成することにより、ラフな素材でもカジュアルになり過ぎず、モードな印象に仕上げています。 ナンバーナイン コットンガーゼジャケット ポケットの裏地 ポケットの裏地にはオリジナルの髑髏モチーフのサテン地を使い、見えない細部までさすがのこだわりです。

■再構築アイテム

ナンバーナイン 再構築ジャケット こちらは[ナンバーナイン]時代の再構築アイテム。今でも特に人気の高いシーズンの、メインアイテムです。アメリカンカジュアルをベースに、新たなロックスタイルを提案したコレクションでした。CPOジャケットとライダースジャケット、ショールカラーのコートとをドッキングさせた、視覚的にも目を引くデザイン性の高い1枚です。 ナンバーナイン 再構築ジャケット ラペル部分 ジャケット部分には中綿をあえて入れ、防寒性を高めつつ軽量性にもこだわり、着る際のストレスをも考慮しデザインされています。ショールカラーにすることにより、かっちりな印象を軽減させ、表面のデザインも上手く引き算がされ、スッキリとした印象になっています。[ナンバーナイン]時代では様々なシーズンで多種の物を融合し再構築する手法が取られていますが、その中でも特に人気の高い名作です。

ソロイスト 再構築デニム 一方こちらは[ソロイスト]のアイコンアイテムである“再構築デニム”シリーズ。ファーストモデルでもある「The Jean」は、リーバイスの501を解体し、立体的にパターンを構成しなおし、クロップド丈にデザインされた1本です。立体裁断にすることで、身体の立体構造に沿い、シルエットが綺麗に見えるのと、ストレッチの効かないデニム素材でも膝周りに可動域が生まれ、動きやすさを実現してくれます。

ソロイスト 再構築デニム 生地アップ 継ぎ合わせ部分は全てロック加工を施し、デニム本来の強度も損なわせません。また立体的なクロップド丈にすることで、デニムの野暮ったさを微塵も感じさせない極上の雰囲気になっています。[ナンバーナイン]時代の、他の生地・他のテイストの物を解体し再構築する手法でなく、宮下氏の着たいもの・作りたいものによりフォーカスし、職人気質の高いアプローチが光るデザインです。

こうして比べてみると、[ソロイスト]は[ナンバーナイン]のエッセンスが引き継がれつつも、より進化していることがわかります。[ソロイスト]での、宮下氏の今後の活躍も見逃せません。

なんばパークス店 NAKAMURA ソロイストを使ったスタイリング

NAKAMURA

私のデザイナーズブランドの原点は、「宮下氏」が手掛けていた[ナンバーナイン]でした。彼の表現するもの全てが素直にカッコいいと思える感覚は、当時から今でも変わっていません。彼の創る洋服を今後も着続けていきたいです。

BUYER'S VOICE

CLOSETトップページに戻る