No.31 「あの人に聞く 1985年」編集者 青木正一さんの場合(前編)

No.31 「あの人に聞く 1985年」編集者 青木正一さんの場合(前編)

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イマに続く1985年の40のコト。

RAGTAG 40th

2026.01.26

RAGTAGが創業した1985年、当時世界でも類を見なかったストリートスナップ雑誌『STREET』が創刊しました。この雑誌を発行したのは、その後『FRUiTS』や『TUNE』などのスナップ誌も手がける編集者でフォトグラファーの青木正一さん。インディペンデントな存在にもかかわらず、世界のファッションにも少なからず影響を与えたこれらの雑誌はどのように生み出されたのか、青木さんにお話を聞きました。2回にわたってお届けする前編は、『STREET』誕生の経緯について。

interview & text : 武井幸久(HIGHVISION)
photo : TAWARA(magNese)

Profile

青木正一

編集者、フォトグラファー

1985年にストリートスナップ雑誌の『STREET』を創刊。1996年に東京・原宿ファッションをテーマにした『FRUiTS』を創刊し、2004年にはメンズ版の『TUNE』を創刊する。日本だけでなく世界のファッションにも大きな影響力を与えたストリートファッションスナップの先駆者であり、雑誌の発行を休止している現在も、ストリートファッションをテーマに活動中。

STREET Magazine  https://www.instagram.com/streetmag/
FRUiTS magazine  https://www.instagram.com/fruitsmag/

index

    人生のテーマになった「ストリートファッション」

    青木正一さん

    1985年に創刊し、通算300号以上発行発刊されたストリートスナップ雑誌『STREET』。ファッション好きなRAGTAGユーザーの方なら、一度は書店で手に取ったことがあるのではないでしょうか。世代的に『STREET』は知らなくても、日本の原宿ファッションを発信し続けた『FRUiTS』や『TUNE』なら知っている、という方も多いかもしれません。それらの雑誌を手がけていたのが、編集者でフォトグラファーの青木正一さんです。現在のところ雑誌の発行は休止されていますが、青木さんは今も原宿に事務所を構え、原宿から世界のストリートファッションを見続けています。

     

    まだパソコンなども普及していない1980年代前半、京都を拠点にプログラマーなどの活動していた青木さんがストリートファッションをライフテーマにしようと考えたきっかけは、「自分探し」の延長で約半年かけて回ったヨーロッパ旅にあるそうです。

     

    「“ヨーロッパ貧乏旅行” みたいな感じでした。当時はまだ日本人が海外を旅することそんなに盛んではなかったと思うのですが、ユーレイルパスという何日か乗り放題のチケットもあったし、パリを拠点にぐるぐるして、今後の人生のテーマとなるような “ネタ探し” をしていたんです。その時に漠然とパリにいる女の子はおしゃれだな、という印象を持ちました。当時は特にファッションを見ようとしていたわけではないのですが、帰国してしばらく経って、『さて、この先自分は何をしようか』と考えていた時に、そのことを思い出したんです」

     

    もともと編集者でもファッション関係者でもなかった青木さんですが、ずっとファッションには興味を持っていて、独自の深い考察もお持ちでした。

     

    「僕からすると当時の日本のファッションって、つまらなかったんですよ。少し前にアイビーブームがあって、80年代はちょうどDCブーム。日本の人たちは何か “お手本” があって、みんなその真似をしたいから、だいたい同じ格好になるんです。でもパリで見た一部のおしゃれな人たちは、それぞれが違う格好をしていて、随分違うなと。あと当時は “ニューアカデミズム” と呼ばれた思想ブームで、僕もご多分に漏れず小難しい哲学書や人文書なんかを読んでいたのですが、その延長で、『人類の発生とファッションの発生というのは、実は同時期に起こっていたんじゃないか』と考えたんですね。人類の発生は言語能力の発生と同義とも言えるし、ファッションは言語の差異化の構造から発生していて、ひょっとしたらファッションの歴史というのは、他の文学や音楽、芸術行為よりも、もっと根源的で、人類の “ルーツ” なんじゃないかと。それなのに当時は “ファッション” が今よりももっと軽い扱いで、軽視されているなと感じていたんです」

     

    インディペンデントな雑誌『STREET』の誕生

    STREET 創刊号

     

    そうして文化人類学的にファッションを見ていた青木さんが、同時にメディアに対して目を向けると、既存のファッション誌の中で抜け落ちている部分に気づいたそうです。

     

    「当時は『流行通信』や『ハイファッション』、『オリーブ』『ポパイ』などのファッション雑誌が流行っていて毎号見ていましたけど、『これは “アパレル情報” しか載ってないじゃん』と。“人類にとってのファッション” はどこにも載っていないなと思っていました。でも日本だと面白くないけど、パリやヨーロッパの街中で見た人たちを写真に撮って雑誌にすれば面白いかもしれない。そうして “ストリートファッション” と “メディア” が僕の人生のテーマに決まったんです」

     

    しかし、海外で写真を撮ることは出来ても、編集者でもなかった青木さんが雑誌を発行するというのは一大事。今では発行までのハードルも多少下がっていますが、当時どのように発行までにこぎつけたのでしょうか。

     

    STREET誌面

    「大阪の心斎橋に『福家書店』という大きな書店があったのですが、ある日その店長さんに『こんな雑誌を作りたいんだけど、どうすればいいですか』って尋ねたんです。その人がすごく良い人で、『出来上がったら置くから、持ってきなよ』と言ってくれて。パリに行って、市内やパリコレの会場でスナップをカメラマンに撮影してもらって、京都の近所の印刷屋さんに相談して、とりあえず36ページの雑誌を1万部印刷しました。今考えると無謀な数字ですよ(笑)。それを持って福家書店に行ったら、『面白いじゃない。明日400部持ってきて』と言ってくれたので、翌日400部を手持ちで納品したんです。それを入り口付近に積んでくれたら、ガンガン売れて。それが1985年、僕がちょうど30歳の時でした」

     

    こうして世界にも類を見ない、“ファッションスナップ誌” が誕生。『STREET』はその後もパリ、そしてロンドンの街中やコレクション会場で撮影が続けられるようになります。当初はカメラマンをアサインしていたものの、すぐに青木さん自身が撮影するようになりましたが、すべて被写体には声もかけずに撮っていたそうです。

     

    「あくまで “記録” でありドキュメンタリーなので、勝手に撮ってました。中には嫌がる人もいましたけど、日本でちょろっと出版するだけなんで、いいだろうと(笑)。後になって『オレが写ってた』と自慢している人も出てきましたしね。今でこそちゃんと声をかけて撮るようになりましたけど」

     

    ファッションは “メッセージ”

    STREET

    『STREET』をご覧になったことのある方はお分かりかと思いますが、そこに撮られた世界の人々のファッションは、自由でインスピレーションに満ちたものでした。その選球眼はもちろん青木さんのもの。今でも語り継がれるそのセンスやクオリティは、どのように実現していたのでしょうか。

     

    「昔から自分のビジュアル的なセンスにはちょっと自信があったんですよね。美術も好きで図版も覚えていたりしたし。特に基準はないですけど、『STREET』で撮るのは『誰が見てもオシャレだよね』っていう人。ヘアスタイルとかもありますけど、全身がオシャレでカッコいい人を撮っているだけなんです。そういう人からは、自分をどう表現するかっていう “メッセージ” が飛び込んでくるので、『あ、いい感じだな』と思って撮影する。インタビューもしないから、職業も何も分からないですけど。ただ、『全身どこかのブランド』みたいな人は避けていたかもしれない。そもそも当時のパリやロンドンにはそういう人はいなかったんですよ」

     

    STREET誌面

    現在パリや世界中のコレクション会場では、“ストリートスタイル・フォトグラファー” が会場の外で待ち構えており、コレクション発表直後からインターネット上でそのスナップが掲載されるようになりましたが、当時コレクション会場の外で撮影しているカメラマンは皆無だったそうです。

     

    「会場の外で撮っているのは、僕だけでしたね。1986年くらいからパリのファッションウィークにも行っていますけど、ファッションショーはほとんど見ない。招待されても見ないというか、中にいると外の子が撮れないんで(笑)。中で撮っているカメラマンには『なんで中で撮らないの?』と言われましたけど、『興味がないんだよね』って言ってました。実際、中で行われていることには興味がなかったんです。今でもほとんどショーも展示会も行かないです。“アイテム” には興味がなくて、それをどうコーディネートするかという、“メッセージ” のことにしか興味がないんです」

     

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