No.33 「ファッションは時代を映す鏡」 40周年を迎えたテレビ番組『ファッション通信』のバックステージ
BACK TO 1985|
イマに続く1985年の40のコト。
RAGTAGが創業した1985年、テレビ東京では『ファッション通信』も放送を開始しました。当時世界でも類を見なかったというこの本格的なファッション情報番組は、2025年で40周年を迎え、変わらず放送を続けています。今回はその裏側を支える制作会社である、株式会社インファス・ドットコムの映像制作部 統括プロデューサーの大西政彦さん、プロデューサーの岡村理彩さん、シニアディレクターの板垣佳代さんにお話を聞くことが出来ました。『ファッション通信』が長年、第一級のファッションジャーナリズム映像コンテンツを作り続けられた理由とは。
interview & text : 武井幸久(HIGHVISION)
photo : 高橋絵里奈

Profile
『ファッション通信』
1985年11月に放送を開始した、世界でも類をみないファッション専門の長寿番組。パリ、ミラノ、ニューヨーク、ロンドンなど世界中のコレクション現場を取材し、年間400本以上に及ぶファッションショーのレポートから、注目のクリエイターやモデル、ショップ、パーティーまで、ファッションシーンの最前線を伝え続けている。制作は映像メディア・プロダクションの株式会社インファス・ドットコム。BSテレビ東京 毎週土曜日の23時から放送中(TVerにて、1週間の見逃し配信中)。
TVer 「ファッション通信」 見逃し配信を見る
インファス・ドットコム https://www.infas.com
- ファッション通信(BSテレ東)
- https://www.bs-tvtokyo.co.jp/official/fashion/
index
早期にファッションのメディアミックスを手がけたデザイナー・森英恵さんの手腕

現在BSテレビ東京で毎週土曜日23時から放送しているTVプログラム『ファッション通信』。ファッション好きのRAGTAGのユーザーの方なら一度はご覧になったことがあるはずです。世界のランウェイ情報から、デザイナーたちへの密着取材に貴重なインタビュー、そして新進気鋭のブランドやクリエイターへの取材など、ファッションに興味がある人にとってはまさに情報の宝庫とも言うべき内容で、ファッション関係者だけでなく、多くのファッション好きの人々を惹きつけ続けています。
この番組がRAGTAG創業年と同じ年の11月に放送を開始したということで、今回はその制作会社の統括プロデューサーである大西さん、そして実際に取材に携わりながら現場を固める板垣さんと岡村さんに登場いただきました。いずれも同番組に20年以上携わるベテラン・クルーの方々です。

「弊社(株式会社インファス・ドットコム)は、ファッションデザイナーの森英恵と夫の森賢が創業したインファスグループの一社で、長男の森顯が陣頭指揮をとった映像メディアプロダクションなのですが、『ファッション通信』がスタートした背景には、それ以前の会社の経緯からお話した方が良いかもしれません。まず1966年に顧客向けの『森英恵流行通信』という紙媒体がスタートし、1969年に雑誌『流行通信』になりました。1976年にはカルチャー誌の『STUDIO VOICE』をスタートさせ、1979年にはアメリカのファッション業界紙『WWD』も取り扱うようになり、ファッション軸のメディアカンパニーになって行きました。そして1981年には、海外のブランドも招聘したファッションショーも主催しています。そのショーを自社で映像化しようという取り組みが、『ファッション通信』の元になっています。紙媒体、イベント、映像 ―― 当時にしてはかなり立体的な取り組みを先鋭的にやっていた会社なんです」
そう話すのは、現在統括プロデューサーを務める大西さん。大西さんは2001年に入社し、『ファッション通信』のアシスタントディレクターからディレクター、そして現在は統括プロデューサーとして、同社の映像コンテンツを作り続けています。

「僕も番組スタート当時のことは分からないので、今回の取材にあたり、当時を知る会社の関係者に聞いてみたのですが、早くから森英恵さんは海外のオートクチュールコレクションなどで活躍していた一方、その立ち上げの背景には、『日本は島国なのでファッションの情報が少ない。それなら海外のファッション情報を入れることによって日本のファッションシーンに風穴を開けて、日本を盛り上げよう』という純粋な動機があったと聞いています。それを主導したのは、森英恵の長男、森顯なんです」(大西さん)
「2026年4月には国立新美術館でも森英恵の生誕100周年を記念した『森英恵 ヴァイタル・タイプ』という展示が始まるのですが、その “ヴァイタル・タイプ” というのは森英恵自身が1960年代に提唱した言葉で、当時はまだ珍しかった、男性と同格に渡り合いながら生き生きと仕事に取り組む女性像のことだそうです」(シニアディレクター 板垣さん)

「実際に森英恵は、ファッションデザイナーでありながら国際舞台で活躍し、自ら積極的に社交界とも繋がって人脈を広げていました。今の時代では女性の活躍は普通ですが、その時代によく出来たなと改めて感心するところは多いんです」(プロデューサー 岡村さん)

ファッションデザイナーとしての功績は広く知られていますが、自社ブランドを超えたメディアミックスの手腕にも長けた森英恵さんが『ファッション通信』の立ち上げに深く関わっていたことは、意外と知られていない事実。国立新美術館での展示は、その森英恵さんの手腕を知ることのできる貴重な機会となりそうです。
ファッション映像ジャーナリズムの先駆者だった『ファッション通信』


現在では海外のランウェイを含めたファッション情報や動画は、インターネットを通じたウェブメディアやSNSなどで瞬時に世界を駆け巡ります。しかし、1985年当時はまだほとんどが紙メディア主体で、映像としてファッションの生な情報を見られるものは世界にもほとんど存在しませんでした。
「古くからの海外のスタッフに教えてもらったことがあるのですが、ファッションショーの現場に映像クルーが入っているのは、フランス、イギリス、イタリアの放送局、そして日本の『ファッション通信』のみだったそうです。しかもファッションの専門番組というのは世界でも唯一日本だけ。それだけ早い取り組みだったのです」(岡村さん)
「簡単なことじゃなかったと思います。今でこそ機材も軽量化し、価格も安くなっていますが、当時のカメラ機材は重いし、数百万円単位のものばかり。それを日本から持ち込んでいたわけですから、相当な苦労をしたと思います。だからこそ、取材に入るとブランドやデザイナーには喜ばれたと思いますし、莫大な費用をかけて自社でその編集まで行っていたそのおかげで、今でも貴重なアーカイブが沢山残っています」(大西さん)


映像によるファッションジャーナリズムのパイオニアであった『ファッション通信』。現在ではファッションのランウェイ取材では一般的な「バックステージ取材」も、世界で初めて『ファッション通信』が行った手法でした。
「デザイナーのインタビューをやろうとすると別日を設けてもらうのが普通だったのですが、あるデザイナーが別日は取れないと。『じゃあバックステージで撮らせてください』というのがスタートだったそうです。それをやろうと言い出したのは、ファッションジャーナリストであり、番組の顔でもある大内順子さんです」(大西さん)
デザイナーたちと築いた深い信頼関係

『ファッション通信』の取材手法は、紙やウェブなどの平面的な手法とは大きく異なります。例えばデザイナーの密着取材コンテンツを映像として紡いで行くためには、何度も制作現場やバックステージに立ち会って記録をし、都度インタビューをするなどの積み重ねが必要となります。それゆえ、ドキュメンタリーとしても濃度の高いものとなり、ブランドやデザイナーとの関係性もより深いものになって行きます。
「ウチの場合、デザイナーの活動初期から取材が始まることが多いんです。ネットワークを駆使して、例えば『次の卒業コレクションですごいデザイナーが出る』と聞けば取材に行きますし、そういうデザイナーさんは節目のタイミングで、『ぜひ「ファッション通信」に取材して欲しい』と言ってくれることも多いです。『実は来年こういうことをしようとしている』という話を早めにもらって、どこにも情報が出ていない段階から密着取材をすることもありますし、そういう長年の信頼関係から生まれるコンテンツも沢山あるんです」(岡村さん)
「だから新しい才能も常にリサーチしています。長年のネットワークから入ってくることもあるし、今はインターネットがあるので、そこから情報を得て取材に行くことも多いんです」(板垣さん)
「今でこそ知られていますが、当時は『誰ですか?』っていうデザイナーやブランドもかなり取材しています。例えばグレン・マーティンス(※[Y/プロジェクト]デザイナーや[ディーゼル]のクリエイティブディレクターを歴任し、現在は[メゾンマルジェラ]のクリエイティブディレクター)のファーストコレクションも取材していますし、[サンローラン]のアンソニー・ヴァカレロも初期から追いかけています。そういうところはウチの強みになっていると思います」(大西さん)
「ファッションは時代を映す鏡」

2025年末には40周年記念特番も放送した『ファッション通信』。数々のデザイナーからの祝辞や、アーカイブ映像の一部も公開されるなど、充実したコンテンツが展開されました。大西さん、板垣さん、岡村さんも過去の映像や音声の記録をチェックしたタイミングということもあり、改めて「数多くのデザイナーの取材を通して、等しく伝わってくるものがあるのか」について聞きしました。
「デザイナーから表現される言葉はそれぞれ違いますが、平坦な表現になってしまいますけど、やはり“ファッション愛”というものは等しく伝わってきます。また、デザイナーというと一般的には独創性が評価されやすい仕事だと思うのですが、実際は社会とか周囲のことを考えた上でのファッション愛を語る人が多い印象です」(板垣さん)

「私はもともと紙メディア出身だから余計に感じるんですけど、映像の世界は文字の世界よりももっと“生(なま)”な言葉を伝えられていると思います。そしてファッションデザイナーというのは、約半年かけて作ったものを一気に表現し、それが終わればまた次のコレクションに取り掛かります。それを続けられる精神力、日本で言えば“根性”みたいなことを等しく持っていると感じますね」(岡村さん)

「言葉の上手い人、上手じゃない人、それぞれ個性があるんですが、同じ言葉であってもその人が言うと『そういう見方もあるんだ』と思わされたりするんです。その言葉の重みみたいなものは、映像という手法、そして番組の中でストーリーを紡いでいるからこそ感じられるものかもしれません。この先も、次の世代に伝わるものを残していけるように番組を続けて行きたいと思います」(大西さん)

『ファッション通信』のコンセプトは、「ファッションは時代を映す鏡」。これは1985年の番組スタート当初から掲げているキーワードで、番組の中でも時折登場する言葉です。次なる時代に向けてファッションのジャーナリズムを紡ぎ続ける『ファッション通信』は、これからもリアルなファッションの現場の臨場感やデザイナーの方々の声を届けてくれそうです。



