“懐かしいけど新しい”の中にファッションがある <br/>Interview with 横澤琴葉

“懐かしいけど新しい”の中にファッションがある
Interview with 横澤琴葉

ファッションクリエイターが考える“繰り返すファッション”
for FF Magazine

FEATURE

2023.12.22

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    2015年にスタートした[コトハヨコザワ]は、即興的なデザインアプローチと日常に溶け込むデザインを身上とするインディペンデントなウィメンズブランド。セレクトショップや百貨店でも展開が広がり、デザイナーの横澤琴葉さんは新世代デザイナーのひとりとして注目されています。横澤さんのファッション観、そして横澤さんが感じるファッションの循環性についてお聞きしました。

    (この記事はRAGTAG発行の「FF Magazine Issue : 01」の抜粋記事です)

    ファッションの“余白”を信じて

    ―横澤さんはどのようにしてファッションと出会ったのでしょうか。

     

    横澤 : 物心ついたときから服が大好きだったんです。一緒に住んでいた祖母が洋裁店をやっていて、足踏みのミシンとかも家にある環境で。祖母が昔、私の母の服を作っていた写真などを見ていて、「洋服って自分で作れるものなんだ」と認識していました。自分で着る服を選ぶのも好きで、小学校の頃に書いた将来の夢もファッションデザイナー(笑)。

     

    ―その頃お好きだったのはどんな洋服ですか?

     

    横澤 : 私が小学生の頃は(子供服の)ナルミヤ・インターナショナルが全盛期の時代だったんです。本当にステイタスだったのですが、お金のある子の家はたくさん買ってもらえても、私は誕生日とか特別な時だけだったので、今シーズンの[エンジェルブルー]からはこういうのが出ているんだなとかチェックをして、近いデザインのものをイオンで買ってもらったり(笑)。買えなくても手を加えるとか、自分らしい工夫をしていました。

     

    ―ここまではどのようにファッションデザイナーの道を歩まれてきたのですか?

     

    横澤 : 高校も服飾系の学科に行って、エスモードという専門学校に入って東京に出てきました。そして新卒で大手アパレル会社に入ったんです。その会社に入りたくて、そこしか受けなくて。デザイナーのアシスタントから始まったのですが、1年で辞めてしまって、もう一度専門学校に通って、2015年に[コトハヨコザワ]を立ち上げました。

     

    ―せっかく入った大手アパレル会社を1年で退職されたのは、何か理由があったのですか。

     

    横澤 : アパレルの大企業は大量に生産もするので、良い生地がより安く仕入れられて使えるんですね。安くて素材クオリティの高い服が欲しいのならもう間違いない、っていうくらい。でも大きな企業は、前もって計画をしている服作りがあったら、そこから安易に方向や作りを変えられないんです。ファッションってショーのギリギリ直前にデザインを変えたりとかよくあるじゃないですか。私はそういう余白が割と大事で、それがファッションの醍醐味だと思っていたんです。いつかは自分のブランドを始めたい気持ちはあったけど、その気持ちを抱えながらこの会社で働けるほど器用じゃないので、「どうせやるなら早めにやろう」と、勝負に出た感じですね。

     

    ―[コトハヨコザワ]を立ち上げたときにはどんなコンセプトやお気持ちがあったのでしょうか。

     

    横澤 : デザインに関して言えば、服は人が作るものなので、ある程度の個体差があるのですが、そういう個体差の許容範囲を広げたいという思いがありました。大企業の場合、数ミリの製品のズレはも許されないのでB品としてはじかれてしまうのですが、それはあまり健康的ではないなと感じていたんです。だから自分のブランドの最初は1点モノから始めました。あと私は長い時間をかけてものづくりするのが性格的に向いていないので、「明日それがあれば着たい」みたいな気持ちと工程が結びついているような、感覚重視のものを作りたいと思っていて、今もそれを重視しています。

     

    ―そのお話からは、大手アパレルにいたがゆえの反発のような部分と、小学生の頃から「服は自分で作れるもの」と認識していたクラフト感覚の両方を感じますね。

     

    横澤 : たとえば本来なら服はこういう仕様や処理をしているべきところをあえてやらないみたいなことで、「[コトハヨコザワ]っていつもこうだから仕方ないか」って思ってもらえたり、「これで服を作っている人がいるなら、私も作れるかもしれない」と思ってもらうのが最終的な願いですね。洋服を作るって、そんなに難しく考えなくていいし、もっと自由でいいと思うんです。服を作ることと、着ることのハードルを下げたい気持ちが割と強くありますね。

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    「懐かしいけど新しい」が 一番ファッションとしてしっくり来る

    ―今回の特集テーマに沿った質問になるのですが、昔の服だったり、トレンドが今見るといいな、と感じることはありますか?

     

    横澤 : それはあります。それこそ私が小学校の時に好きだったナルミヤの服だったり(笑)。あとは2000年頃のデニムのデザインがまたリバイバルしていますが、今見るとギリギリなデザインもあったじゃないですか。それを今の気分で再構築しているものも多いなと思っていて。私は今31歳なのですが、こうやってトレンドって一周するんだということを生まれて初めて見たような気がしています。

     

    ―トレンドのリバイバルを体感されたわけですね。

     

    横澤 : 以前は周りの大人の人たちが「懐かしい」と言っているのが自分では分からなかったですけど、90年代ファッションが流行り出したら私にも懐かしみみたいなものが生まれて。その時に思ったのは、「“懐かしいけど新しい”みたいなことが、一番ファッションとしてしっくり来るんだな」、ということでした。

     

    ―服を作る上で、デザインや素材、柄などで過去から来ているものを取り入れている感覚はありますか?

     

    横澤 : 私は柄も自分で作るし、グラフィックも自分でやるんですけど、ゼロから何かを作ろうとは全然思っていないんです。古着も好きだし、参照したいものや好きなものが必ずあって。でも、それをそのまま作るというよりは、“コラージュ”みたいな感じかもしれないです。何かを作る時にいくつかの要素があって、でもそれだけじゃ足らないから、そこに全然関係ないものを差し込みたくなるんです。それによって時間の幅みたいなものも出てくるというか。

     

    ―例えば80年代的な要素に2000年代のものを足したり、ということですか。

     

    横澤 : そうです。そこまで深く考えないで、自由にやっている感じかもしれないです。

     

    ―服に哲学を込めるというよりも、という感じですか?

     

    横澤 : それはもちろんあるんですけど、それは着ている人の振る舞いが魅力的になったらいいなという意識の方が強いと思います。それはデザイナーの方はみなさんそうだと思います。私はパターンとか技術とか素材がどうだというよりは、服によってその人の行動や気持ちがより自由になったり、大胆になってくれたらいいなと思っています。

     

    ―でも機能的にしたいわけではなく。

     

    横澤 : たとえば洗う方法がない、みたいなのはイヤですけど、扱いやすいに越したことはないとは思っています。洗ってボロボロにしていった方がよく見えるのなら、それでもいいと思います。もちろん一旦は完成させた状態で販売はするんですけど、買った時の状態が一番いい状態とはあまり思わないんですよね。その人の生活と着こなしが馴染んでいく感じの方が好きなんです。

     

    ―良い感じの古着などはそういうものですね。

     

    横澤 : 古着の面白さって、ヘンなものに出会えたりするところもそうですが、「これを誰かが買って、着て、何かの理由で手放して私のところに来たんだ」っていうところだと思うんです。昔の図書館の貸し出しカードみたいなものですね。「あ、この本が借りられたのは前の人から12年後なんだ!」みたいな(笑)。だから私の服が古着になることは全然イヤじゃなくて、もし私がおばあちゃんになった時に、古着屋なのかリサイクルショップで私が作った服が並んでいたら、たとえその意味が薄れていたとしても、嬉しくて泣いちゃうと思うんですよね(笑)。

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    Profile

    横澤琴葉(よこざわ ことは)

    kotohayokozawa デザイナー

    1991年愛知県生まれ。名古屋市内のファッション専攻の高校を卒業後、上京。エスモード東京校を卒業後、大手アパレル会社に入社し、デザイナーアシスタントとして働き、1年で退社。退職後に1年間エスモードAMIに通い、2015年3月よりkotohayokozawaをスタート。

    HP : https://kotohayokozawa.com

    Instagram : @kotohayokozawa
    https://www.instagram.com/kotohayokozawa

    Creative Staff

    Interview & text : Yukihisa Takei(HIGHVISION)
    Photo : Yasuyuki Takaki

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