あの人が考える“ファッションは繰り返す?”[小沢宏]

あの人が考える“ファッションは繰り返す?”[小沢宏]

COLUMN for FF Magazine

COLUMN

2023.09.15

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    ファッション・マルチバース

     

     

    僕は長いことメンズファッションのスタイリストを続けてきた、というか今でもスタイリストである。自分が運営している長野県上田市のショップ「エディストリアルストア」の店主でいられるのも、スタイリストだからこそ、という思いが強い。

     

    例えば僕の店は「雑誌の3D化」を掲げている。今までビームスのオリジナルとジャーナルスタンダードのオリジナルが1本のラックに掛かっている店があっただろうか。って、そんなもんあるわけない!そもそもそのような店が成立するなんて誰も考えたことがなかっただろう。でも雑誌のページでは当たり前に紹介されている。ってところからも「雑誌の3D化」が伝わるだろうか。

     

    もうひとつ大きなテーマというか、僕の店の根幹となっているのが「ライブストック」という考え方だ。僕の店の商品はいわゆる「経年在庫」もっとネガティブな言葉で言えば「不良在庫」で成り立っている。つまりはこういう仕組みだ。あるショップでシーズンの終わりにセールをやって、それでも残って、今度はファミリーセールをやってそれでも残って、大きなところだとアウトレットに持っていってそれでも売れ残って、最終的に行き場を無くした洋服たち。それを抱える倉庫に入れてもらって、僕なりの審美眼でピックアップして店頭で販売する、という流れだ。つまり「デッドストック」だったものを生き返らせるという意味で「ライブストック」という造語を考えて、それを実践している店ということになる。
    これもスタイリストだからこそ、と自認している。

     

    さて今回のお題は「繰り返すファッション」とのことだが、僕がやっていることも「繰り返し」なんだろうか。エディストリアルストアの商品もある意味では繰り返しているのかもしれない。あくまでも「ある意味」においてではあるが。それはどういうことか。数シーズン前の洋服を扱っている、という側面においては「繰り返し」とみなされても仕方ないだろう。でも単なる繰り返しにモノとしての価値や輝きはあるのだろうか。答えは当然「NO」である。どのタイミングで、どんなアイテムが、どんなファッションの文脈・トレンドに影響を受けて、今店頭に並んでいるのか?そこにフォーカスするならば、決して繰り返しではないということが理解してもらえるはずだ。ではファッション業界でまことしやかに言われている「トレンドは20年毎に巡ってくる」だとか「トレンドは繰り返されるのではなく、螺旋階段のように渦を巻きながら上に登っている」という説は正しいのか。それについても僕は「NO」と言わざるを得ない。あえて例えるならマーベル映画の考え方「MCU=マーベル・シネマティック・ユニバース」に近い気がしている。「ん?どゆこと?」と思われる方もいるだろう。具体的な映画で言うと「スパイダーマン」シリーズとか。最近観た(タイトル忘れちゃいました)歴代のスパイダーマンが全員出てきちゃう映画。それぞれのスパイダーマンにキャラクターとヒストリーがあり、彼らがマルチバースを超えてまた出会って敵と戦って……みたいな。

     

    ではスパイダーマンをバンドTに置き換えてみたらどうだろう。ヴィンテージの数十万円もするモノから、メゾンブランドが作ったモノから、セレクトショップに置かれているモノから、はたまたファストファッションが出しているモノまで。単純にバンドTと言っても、それはマルチバースのように多次元で展開されており、どれがホンモノでどれがニセモノということでもない、すべてが融合された世界なんだ、というのが僕が唱える説である。……のだが分かってもらえただろうか。

     

    何が言いたかったかと言うと「ファッションに正解はない、ただ自由に着るだけでいい」というある種のユートピアである、ってこと。この雑誌を読んでいるアナタも「ファッション・マルチバース」を自由自在に楽しんでください。

     

     

    (この記事はRAGTAG発行の「FF Magazine Issue : 01」の抜粋記事です)

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    Profile

    小沢宏(おざわ ひろし)

    スタイリスト/エディストリアルストア店主
    1964年、長野県生まれ。2022年、故郷の長野県上田市に「エディストリアルストア」をオープン。また「ライブストック」という理念を広げ、各地で「LIVESTOCK MARKET」を展開している。

    HP : https://edistorialstore.com/
    Instagram : @ozawahiroshi
    https://www.instagram.com/ozawahiroshi

    Creative Staff

    Illustration by Hisayuki Hiranuma

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