あの人が考える“ファッションは繰り返す?”<br>[増田海治郎]

あの人が考える“ファッションは繰り返す?”
[増田海治郎]

COLUMN for FF Magazine

COLUMN

2023.12.15

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    かつてのクールはダサいになった後に 今一度クールに進化する。

     

    若い頃はいまいちピンとこなかった「ファッションは繰り返す」という言葉。自分が高校時代に流行した35年前(!)の渋カジは、70年代のアメリカ西海岸ブームを経験したひとまわり上の世代から「俺たちのコピーにすぎない」ってしばしば言われたけれど、とうの自分たちは自分たちが生み出した新しいファッションだと思っていた。でも今になって冷静に両者を比較してみると、細部は異なるけれどねっこは同じだ。1971年にマルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドがロンドンに作った伝説のショップ「Let it Rock(ヴィヴィアン・ウエストウッドのルーツのWorlds Endの前身)」は、1950年代のテディボーイのスタイルをなぞったお店だったというから、その頃からきっとヴィヴィアンたちは上の世代からそう言われてうんざりしていたのだと想像する。さよう、ファッションは繰り返すのだ。

     

    去るゴールデンウィークに、ポップアップショップの手伝いで渋谷パルコの店頭に立つ経験をした。通路を行き交うスタイリッシュな若い男子の多くは、モノトーンの細身のドレス寄りのスタイルに身を包んでいて、なんとネクタイを締めている子も散見する。カジュアル化が行き過ぎるとドレスアップが新鮮に見えるファッションの反転は、かつて自身も経験している。どアメカジだった渋カジの最後の徒花的なかんじで1991年秋に流行したデルカジ! デルカジとはモデルカジュアルの略で、モノトーンを基調としたアメカジに父親から拝借したネクタイを締めるという摩訶不思議なスタイルだった。30数年前の自分たちがネクタイを新鮮に感じたように、きっと現代の若者たちも同じように感じているのだろう。

     

    先日行われた2024年春夏のパリ・メンズファッションウィークでも、同じような先祖帰りが見られた。今シーズンの最大のトレンドは〝エレガンス・ワーク〟と形容したくなるような、アメリカのワークウェアを現代的に編集したスタイル。なかでも主役は、腿から脛までを生地を重ねて補強した〝ダブルニー〟のペインターパンツだ。自分が知るかぎり、この無骨なアイテムがランウェイを占拠したのは前代未聞。アメリカのストリート上がりのデザイナーの間では〝パンツ版ティンバーランドのイエローブーツ"的な存在で、スキャパレリのダニエル・ローズベリーが私服として愛用していたり、少し前からブームの兆しもあったのだが、まさかここまで広がるとは思っていなかった。35年前にカーハートやスミスのペインターパンツを「なんかゴワゴワしていて股上深すぎで腰回りがタイトで穿きにくいなー」と思いつつ穿いていた思い出があるのは自分だけではないだろう。

     

    ファッションが繰り返す周期は20年っていうけれど、一番ダサく見えるのが10~15年前のファッションだと自分は思っている。でも、コロナ前は猛烈にダサく見えたゼロ年代を象徴するローライズデニムが、[ミュウミュウ]のミウッチャ・プラダと[Y/プロジェクト]のグレン・マーティンスの手で〝it〟なアイテムに生まれ変わったように、かつてのクールはダサいになった後に今一度クールに進化する。若い頃に夢中になったファッションが一周して自分たちの子供世代が同じようなファッションに身を包むようになったとき、大人になったかつての若者はこの言葉の意味を理解し、自然と口にするようになる。だから「ファッションは繰り返す」という言葉は永久に不滅なのである。

     

    (この記事はRAGTAG発行の「FF Magazine Issue : 01」の抜粋記事です)

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    Profile

    増田海治郎(ますだ かいじろう)

    ファッション・ジャーナリスト
    1972年埼玉県出身。神奈川大学卒業後、出版社、繊維業界紙などを経て、2013年にフリーランスのファッションジャーナリストとして独立。年2回の海外メンズコレクション、東京コレクションの取材を欠かさず行っており、年間のファッションショーの取材本数は約250本。著書に『渋カジが、わたしを作った。』(講談社)がある。

     

    Instagram : @monsieur_kaijiro
    https://www.instagram.com/monsieur_kaijiro

    Creative Staff

    Illustration : Hisayuki Hiranuma

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