RAGTAGバイヤーが語る“ファッションのオタクな話”<br>Maison Margiela編

RAGTAGバイヤーが語る“ファッションのオタクな話”
Maison Margiela編

RAGTAG BUYER’S FASHION FREAK TALK
for FF Magazine

FEATURE

2023.11.13

MAJIMA

Profile

MAJIMA

渋谷店 / バイヤー

アメリカ古着の文化に触れ、ブランド古着にも興味を持ち、入社。入社後は様々なブランドに接してきました。古着好きで、古いものの価値を大切にしています。N.HOOLYWOOD、Maison Margielaなどを長く着用しています。 「お客様に寄り添った対応」がモットーです。 自分も楽しみながら、その店、その人に対応してもらいたいというお客様をふやせるように接客いたします。是非一度ご来店ください。

SAITO

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SAITO

WEB買取チーム / バイヤー

学生の頃からマルジェラ、ヨウジヤマモト、コムデギャルソンなどモード系ブランドを愛用しています。こちらのブランドはテイストが変わらず、当店でも高価買取できる人気のブランドです!そして、かくいう私もマルジェラ足袋ブーツのコレクターです。今では手に入らないレアなものに出会えるのも当店の醍醐味!大切なお洋服も心を込めて買取いたします。

MOCHIZUKI

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MOCHIZUKI

渋谷店 / バイヤー

生粋の服バカを続けて10数年が経ちました。カジュアル、ストリートからモードブランドまで幅広く足を突っ込み続けております。40歳を迎えようとしている今もなお服への愛は止まりません。昨今はネペンテス系ブランドの熱が再燃して、Engineered GarmentsやNeedles、South2west8を中心にスタイリングをしております。元々古着も好きなため、MILITARYのアイテムやPOSTOVERALLSなど老舗ブランドにも目がないです。実はMaison MargielaやCAROL CHRISTIAN POELLといったアルチザンブランドにはまっていた20代の若気の至りもあるのでそのあたりのお話もガッツリ出来ます。是非ご来店された際には服の話を熱く語りましょう!!

index

    バイヤーとして膨大なファッションの知識を蓄えたスタッフによる、“ファッションフリークトーク”。今回は[メゾン マルジェラ]について。自身も[マルジェラ]好きな3名のスタッフが、その歴史や定番アイテム、ディティールについて縦横無尽に語ります。(この記事はRAGTAG発行の「FF Magazine Issue : 01」の抜粋記事です)

    自分とマルジェラ

    ―まずはそれぞれ、自分と[マルジェラ]の関わり合いについて教えてください。

     

    Majima : 自分は1999年にラグタグに入社してから[マルジェラ]に出会いました。当時はまだ路面店もない時代で、青山にあった「アドバンスドチキュー」というお店で買い始めました。もともとはアメカジや古着が好きでしたが、[マルジェラ]の“破壊的”なところに惹かれて、“アーティザナル”という古着の再構築ラインを中心に買うようになりました。最初に買ったのは、割と有名な“ペンキのデニム”です。

     

    Saito : 私も1999年入社で、いろいろブランドの勉強を始める中で出会いました。最初に買ったのは“白タグ”のピンクのカーディガンなのですが、首元から袖が出ていて、着てみるとノースリーブ。そのデザインに衝撃を受けました。シンプルだけど気が利いたデザインが多かったので、毎シーズン何かを買うようになりました。“タビシューズ”のシリーズも色々買いましたし、かなりこのブランドには注ぎ込みましたね(笑)。

     

    Mochizuki : 僕は入社するまではそこまでブランドの魅力は感じていませんでした。20代前半に大阪の「タゴマゴ」という古着屋に通っていまして、そこに[マルジェラ]の“アーティザナル”の古着があって、そこでブランドについて色々じっくり教えてもらったんです。僕は2006年入社なので、マルタン・マルジェラ本人がデザインしていた時期は1年くらいしか味わっていないのですが、ジョン・ガリアーノに代わる時期に“オブジェ”のシリーズは色々買いましたし、転写プリントT、“ゼロテン”と呼ばれるメンズの“アーティザナル”のラインを見つけては買うようになりました。

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    マルジェラ本人は「取って欲しい」と言っていたカレンダータグ。カレンダータグの裏面のしつけ糸も[マルジェラ]のアイコン。

     

    ―[マルジェラ]と言えば、やはり“カレンダータグ”の話が避けられないのですが、ここがこのブランドにハマっていく人はハマリ、分からない人は分からないポイントですよね

     

    Mochizuki : “カレンダータグ”は、マルジェラ本人がもともと[ジャン・ポール・ゴルチエ]にいたその反動もあって、自分の顔が前に出たりロゴが前面に出るのが好きじゃなかったので、「ブランドの覆面性」に重きを置くようになって、あえて数字だけタグをつけるというコンセプトでやり始めたものです。本来このタグは「取ってもいい」と言われていた時代もありまして。

     

    Saito : 本人は「取って着て欲しい」と言っていましたね。

     

    Mochizuki : 「あれは販売タグが付いているのと一緒なので、洋服だけを見てほしい、タグはどうでもいい、ブランドの名前もどうでもいい」みたいな意向だったんです。分かりにくいから数字に分けるというのがカレンダータグで、最初は「1」、「4」、「10」、あとは何も書いていない白タグでした。路面店が出来たくらいの時期に「14」が出来たんでしたっけ?

     

    Majima : 路面店が恵比寿に出来たのは2000年くらいですね。当時はスタッフさんによって言うことも違っていて、「14」は“クラシックな服の再解釈”として「フォーマルとかミリタリーのベースを今風にアレンジしたもの」と[マルジェラ]のスタッフから聞いた記憶があります。でも途中から「10 」のラインがスタンダードで、「10」のアーカイブを「14」がやるという風に変わっていったと思います。そしてデザイナーが代わるタイミングくらいでその辺も不透明になるんです。

     

    Mochizuki : 不透明性を大事にしているブランドだけあって、マルジェラの言っていることも、末端のショップスタッフまで話が来ていないから曖昧な感じになっていて、それも神秘性に繋がっていたと思います。

    Saito : あとはバッグや小物、アクセサリー「11」、靴が「22」ですね。

     

    Mochizuki : “オブジェと出版物”が「13」、あと「8」が“アイウェア”ですね。[MM6]はいつでしたっけ?

    MM6の位置付け

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    最初は「6」の数字に丸だったラインが[MM6]として独立。

     

    Majima : [MM6]は路面店がオープンした時には置いていましたね。もともとは女性のセカンドラインということで出て来たんですけど、丈の長さ、袖の長さでショート、ミドル、ロングの3種類の違いがありました。

     

    Saito : カジュアルラインみたいな感じで価格帯も少し安めだったんですけど、最初はカレンダータグの6にマルが付いていましたよね。”マルタン・マルジェラ シックス”みたいな感じだったんですけど、それが[MM6]として独立したんです。

     

    ―「[MM6]はセカンドライン」という位置付けはファンの中にはあるのですか?

     

    Saito : うーん、セカンドラインというより、「別物」という感じですかね。

     

    ―「[コム デ ギャルソン]じゃなくて[CDG]」みたいなことですか。

     

    Saito : そこまで極端ではない気がしますが、でもあの当時の[マルジェラ]ガチ勢からすると……。

     

    Mochizuki : 「[MM6]は邪道」みたいな感じはあった気がします。逆にあの当時は“反骨精神”みたいな感じで、「逆に[MM6]を買う」みたいな人もいました(笑)。

    マルジェラ本人期、 デザインチーム期、 ジョン・ガリアーノ期

    ―またユーザーを混乱させるもののひとつに、ファンが言うところの「○○期」問題がありますよね。

     

    Mochizuki : そうですね(笑)。もともとは「本人期」と言われるマルタン・マルジェラ本人なんですね。2007、8年頃までが「本人期」でマルジェラ本人がデザインをしていました。

     

    Saito : でも本当にマルジェラ本人の顔もメディアには全く出なかったですね。

     

    Mochizuki : デザイナーが「デザインチーム」に変わったという話も、噂で話していただけで、割と曖昧にされていました。2019年の映画(『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”(Martin Margiela: In His Own Words)』)のタイミングで答え合わせになったんですけど、それまではマニアックな人たちが調べている“噂の一人歩き”みたいな感じで、ある程度信憑性のあるデータはいっぱい出てはいるけど、オフィシャルに公表されたのはあの映画だったんです。

     

    ―それが「デザインチーム期」。

     

    Mochizuki : そこまで厳密な言い方ではなく、あくまで「デザインチームがやっていた時期」という感じで、そこはあまり取り沙汰されない時期です。2009年くらいからジョン・ガリアーノがクリエイティブディレクターになった2014年、そして2015年のシーズンから「ガリアーノ期」に入ります。

    「ガリアーノ期」を 再考する

    ―ジョン・ガリアーノに変わるというのは、やはりファンの中では大きな話だったのですか?

     

    Saito : 割と大きかった気がします。

     

    ―それはポジティブな意味ですか? それとも?

     

    Mochizuki : どちらかというと後者ですね。

     

    Saito : どういう風になるのか、全然想像がつかなかったです。

     

    Mochizuki : ガリアーノ=(イコール)ド派手な、マルジェラと相反するような服を作るデザイナーのイメージだったので。

     

    Majima : 自分が前面に出る感じですよね。

     

    Mochizuki : ご自身のコレクションもそうだし、[クリスチャン・ディオール]をやっていた時も、かなりエレガンスで、派手、煌びやかというか。マルジェラはもうちょっと素朴なイメージというか、無機質だったり、白い世界観だったり。

     

    Saito : だから「なんでガリアーノ? 」っていう感じでした。

     

    Mochizuki : その時スタッフさんからも、「もう“タビブーツ”などの定番がなくなるかもしれないので買った方がいいですよ」というのはよくアナウンスもされていて。

     

    Saito : 確かにそういう話はありましたね。

     

    Mochizuki : “ハの字ライダース”がなくなる、“エルボーパッチ”もなくなる、“タビブーツ”もなくなるみたいな。

     

    Saito : 全然変わるんじゃないかという噂はありましたね。

     

    ―結果それらのアイテムがなくなった時期もあったのですか?

     

    Mochizuki : いや、結局一回もなくならなかったです。

     

    ―ということは、あまり変わっていないのですね

     

    一同 : うーん……。

     

    Saito : 確かに変わってはいないんですけど、結果的に売れているんですね。マルジェラがやっていた当時より人気も上がって、そこからブランドを知った人が増えたイメージですね。

    ジョン・ガリアーノが生んだバッグシリーズ “5AC”は、大胆でエレガントなデザイン。

     

    ―元の[マルジェラ]は、コアなファッション好きがひっそりと楽しむゾーンにあったもので、ガリアーノが入ったことで、もう少しハイプな印象になったというか。

     

    Saito : 客層が広がったというか。

     

    Mochizuki : バンドで言えば、インディーズだったのがメジャーになったような(笑)。

     

    一同 : あー!それです(笑)。

     

    Mochizuki : 音楽でもそうですけど、バンドがインディーズだった時に好きだった人は、メジャーになると離れてしまう方も多いじゃないですか。もちろんそうじゃない方もいらっしゃいますけど。そういう感じに近いのかもしれません。

     

    Majima : ガリアーノになって最初は賛否両論あったものの、多分当時の売り上げの何百倍になっていると思います。多分単価も当時の倍以上に上がっていますし、実際に店舗数も4、5倍になっていますね。

     

    Saito : やっぱりラグタグでも高く買取仕入れさせていただくようになっています。

     

    Mochizuki : 多分世の中の流通量も増えているので、かなり売り上げを伸ばせていると思います。そういう意味では結果的にポジティブですよね。

     

    ―マルジェラが退任したというのは、理由は何だったと言われているんですか?

     

    Saito : 全然分からないですけど、隠居生活をしたかったのかなと(笑)。噂ですけど。

     

    Majima : もちろん監修はしていると思うんですけど、デザインチームに任せて、2002年に[ディーゼル]の会社(OTB)に買収されてから、自分がさらに一歩引いた立ち位置で引退しようとしていたのかなと思いました。

     

    ―現在の[マルジェラ]に、マルタン・マルジェラのイズムは残っていると感じますか?

     

    Mochizuki : これは捉え方によって全く違うと思うんですけど、僕はあまり残っていない気がします。

     

    Majima : 商業的なところでは残している感じはありますよね。

     

    Mochizuki : そうですね。あえてスピリチュアルな感じは残しているとは思います。

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    カレンダータグを前面に刺繍したスウェット。マルタン・マルジェラがデザインしていた時期には見られなかったデザイン。

     

    ―ミステリアスな部分をビジネス的に残しているというか。

     

    Saito : ガリアーノになってから、カレンダータグが前面に来るようなデザインが増えたのですが、マルジェラ本人がデザインしていたら、目立たないように中に付けるようにしていたと思います。ガリアーノはこのタグもあえてデザインに使う方向なので、それは昔からのコアなファンにしてみたら、「それはちょっと違うんじゃない」と思うのかもしれない。でも結果的にはこれがあったから、売れたんだと思います。

     

    ―現在も続いている[マルジェラ]のポジティブな側面はどういうところだと思いますか?

     

    Mochizuki : 多分それまでの[マルジェラ]の売り方だと、時代には沿っていなくて限界はあったのかなと正直僕は思います。当時の色んなモードブランドが“何となく残っている”感じでそれ以上になっていないブランドも多いと思いますが、[マルジェラ]がそうなってしまったら、もったいなかったと思います。現在も人気で売れていて、未来の道筋が出来ているから、過去のマルジェラも神格化されたというか。そういう意味で、ブランドがアップデートされたのだと思います。

     

    ―それまでのスタンスでやっていたら、もしかしたらブランド自体がなくなっていたかもしれないですね。もしくは縮小した状態で継続していたか。

     

    Mochizuki : なっていたかもしれないですね。[バレンシアガ]とか[ヴェトモン]とか、ああいう感じにブランド自体を前面に出さないと、そんなに通(ツウ)な服を買う時代じゃなかったと思うので。結局こだわった想いだけで商売が成り立つわけじゃなく、服を売っていかなければいけない。それをやったガリアーノの先見の明やセンスは凄いのかなと思います。

     

    Majima : ガリアーノ自体が[マルジェラ]をちゃんと解釈してデザインしたんですよね。やはりトップデザイナーとして、ブランドコンセプトはしっかりと残しつつ、自分に落とし込んで、今のトレンドや消費者のニーズを掴むものを作った結果だと思います。自分も昔の[マルジェラ]は好きなんですけど、今のガリアーノがやっているデザインのものをみても「あ、いいな」と思うものがたくさんありますし、新しく[マルジェラ]を知った若い方も上手く取り込めるようなクリエイションをしているなと思います。

    [マルジェラ]の定番、 ディティール

    ―最後に[マルジェラ]と言えばの定番や、ディティールを整理したいと思います。カレンダータグ、背中の4つのステッチ、あとはエルボーパッチ、定番だと“タビシューズ”、“ハの字ライダース”あたりが代表的ですよね。

     

    Saito : あとは“エイズT”ですね。文字通りエイズ治療に寄付されるものなのですが、ずっと定番で出ています。

     

    Majima : 毎シーズン色が変わるので、それを毎シーズン集めている方も多いですよね。

     

    Saito : 何十万円のものばっかりだった[マルジェラ]の中ではお手頃だったので、入口として買う人も多いと思います。

     

    Mochizuki : コンセプトもいいですよね。値段は安いけど、「安いから買う」という感じじゃないところも買いやすかったです。ちゃんと意味があるというか、メッセージ性もあるので。

     

    Saito : このデザインでワンピースとかスウェットとかもあったりします。

     

    Mochizuki : 出た当時は実際にペンキだったのかなと思いますが、今はラバープリントに変わっています。

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    [マルジェラ]の定番“エイズT”は、チャリティになっている。

     

    Mochizuki : “ハの字ライダース”は割と最近『WWD』の編集をやっていらっしゃる三澤さんという方の私物が数百万に跳ね上がったという記事をご自身でも挙げていらっしゃって、コレクターの中でも話題になっていた気がします。当時も中田英寿とかベッカムとか、いろんな著名人が着ていましたね。

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    こちらも定番“ハの字ライダース”。ジップの配置が特徴的。

     

    Majima : ドライバーズニットも定番ですね。元々トラック乗りが着ていたという、肉厚な前開きジップのカーディガンです。今は少しビッグシルエットに切り替わっています。

     

    Saito : あとレディースではバッグがやはり強いと思います。

     

    ―では5大アイテムといえば、エイズT、ハの字ライダース、ドライバーズニット、バッグ、タビシューズあたりでしょうか。

     

    Mochizuki : あとはノーカラージャケットですかね。マルジェラの時にはあまり出していなかったので、レアアイテムとして人気だったのが、ガリアーノになってから定番になって、人気が返り咲きました。

     

    ―どれも最初は意外性のあるデザインだったと思うのですが、それを繰り返しやっていくことで“オタク性”が増していくというか。定番的なデザインも継続しているから、ファン的にも入っていける要素が多いのでしょうね。ありがとうございました!(この記事はRAGTAG発行の「FF Magazine Issue : 01」の抜粋記事です)

    Creative Staff

    Interview & text : Yukihisa Takei(HIGHVISION)
    Photo : TAWARA(magNese)

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