ファッションコレクターの肖像 Part.2[高見 薫]

ファッションコレクターの肖像 Part.2[高見 薫]

Profile of Fashion Addicts for FF Magazine

FEATURE

2023.12.01

自宅を改造して作られた“スニーカー部屋”に美しく並べられた[ナイキ]が約600足。この所有者である高見薫さんは、女性では珍しいスニーカーコレクターとして知られています。ただしこれらはコレクションでもあり、高見さんの仕事の思い出でもあるそう。ナイキジャパンに25年勤めた高見さんだからこそ集められたスニーカーの数々は、今や歴史的な価値まで帯びて来ているようです。

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    仕事を通じて集まった コレクション

     

    千葉県某所にある高見薫さんのご自宅。その2階の一室には、特設の棚に[ナイキ]のスニーカーが整然と並ぶ空間が広がっていました。その数約600足。スニーカーコレクターといえば男性のイメージが強いですが、高見さんは少し珍しい、女性の[ナイキ]コレクターとして知られています。

     

    「特にレアな[ナイキ]をコレクションしているわけでもなく、仕事を通じて自然に集まったものです。基本的に当時現役で購入していて、後から買ったものはありません。もちろんスニーカーは好きですけど、そのことを考えて眠れなくなるほど好きというわけではありません(笑)」

     

    高見薫さんは現在[UGG®]などを展開するデッカーズジャパンに勤務されていますが、実はその前に25年間ナイキジャパンに勤めていた経歴をお持ちです。高見さんはナイキジャパンに1991年に入社。約10年間は[ナイキ]アパレルの営業で、その後いわゆる“原宿営業”の業務を約15年間担当されました。影響力のある原宿のショップや人物とコミュニケーションをしながら[ナイキ]製品の卸先などを選定していたため、今や世界的に見ても切っても切り離せない関係にある“原宿と[ナイキ]”を陰で支えた人物としても知られています。

     

    「私が大学生の頃はちょうどバブル景気真っ只中で、 “女子はお茶汲み、夜はクラブのお立ち台”みたいな世界でした(笑)。でも私は『今後はその反動でカジュアルな時代がやってくる』と考えていましたし、その最高峰はスポーツカジュアルで、今一番カッコいいのは[ナイキ]だと思って入社しました。私が入社した当時の[ナイキ]は、“ザ・体育”の世界でしたね」

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    [ナイキ ACG]のアウトドアライクなアパレルも1990〜2000年代を中心に複数のコレクションを保有。

    “原宿とナイキ”を繋いだ 縁から生まれたスニーカー棚

     

    高見さんが睨んだ通り、[ナイキ]は90年代に一大ブームとなります。

     

    「1996年に“エアマックス95”で[ナイキ]ブームがやってきました。私はあの時は忙殺され過ぎて、“95”の印象は悪夢でしかないのですが(笑)、それこそ“エアマックス狩り”なんていう社会問題にもなりました。でも97、8年にはすぐにブームは失速するんです。ただ、そのブームの余韻で、街でスニーカーを履く人も増えたので、『スポーツだけじゃなく、ストリートにもアプローチが必要なんじゃないか』という話になって、各部署からの寄せ集めでチームが結成されました。私もその一員になって、原宿のショップや人に会うようになりました」

     

    “裏原宿ブーム”が訪れると、藤原ヒロシさんなどを筆頭にしたストリートのファッションクリエイターの活躍が目立つようになり、高見さんも[ナイキ]の一員として交流を深めるようになります。その中でも最も深く関わった人が、[ソフ]の清永浩文さん(※現在は退任)だったそうです。

     

    「メンバーの一人が[ナイキ]のアパレルでタッグを組めるブランドを探している中で、まだスタートしたばかりの[ソフ]がいいんじゃないかという話になるんです。そこから16年間、[ソフ]から派生した[F.C.Real Bristol]は[ナイキ]と協業することになるのですが、私はそのうち15年間営業担当しました。だから清永さんたちとは、もうヒザに穴が開くんじゃないかっていうくらい密にやり取りをしましたね(笑)」

     

    [ソフ]ブランドと[ナイキ]は密接な関係を築き、それは原宿のSOPH.TOKYOの上に2015年にオープンしたスニーカーショップ「A+S(Architecture&Sneakers)」にも結びつきます。実は高見さんの“スニーカー部屋”は、一連の[ソフ]との仕事を通じて生まれたもの。この部屋とスニーカー棚、そして玄関の設計は、[ソフ]の画期的な内装を手がけたことでも知られている建築家、アーキタイプの荒木信雄さんに依頼したものでした。

     

    「他の建築家の方を知らなかったというのもあるのですが、つい相談してしまったんですよね(笑)。スニーカーのコレクションの話をしたら面白がってくれて、一緒に考えながら作りました」

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    むしろ貴重?な インラインモデル

     

    自分のスニーカーコレクションの専用棚を、仕事の延長で知り合った著名な建築家に依頼。これ以上ないほど順調に聞こえる展開ですが、この“スニーカー部屋”は一気に出来たものではなかったそうです。

     

    「2016年にナイキジャパンを退社して、しばらくのんびりしていたんです。ちょうど引っ越してこの家に住むタイミングも重なったのですが、膨大なスニーカーの整理がもはや仕事みたいで、全然進まなくて。これが趣味だったら楽しくできるんでしょうけど、私の場合はお金ももらっていないのにやる仕事、みたいな感じだったんですよね」

     

    高見さんはスニーカーの整理をしながらエクセルで棚のイメージを作成し、どこにどのモデルを収納していくかを考え始めます。高見さんが考えたのは、無作為にスニーカーを並べるのではなく、モデルや年代、デザインなどに込められたストーリーを自分の中で整理し、秩序のある棚にすること。その構想から棚の完成までに2年もの年月を費やしたそうです。この部屋が完成すると、知り合いを通じたバスケットボール関連のメディアから始まり、ウェブメディア、そしてテレビの取材が次々と入るように。中でも前職である[ナイキ]の現役社員もが、高見さんの貴重なコレクションを確認しにやってくるそうです。

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    高見さんが所有する[ナイキ]の 希少なモデルたち。「レディースはなぜかリバティ柄を使いがち(笑)」。

     

     

    「[ナイキ]がかつてのモデルをイベントなどで展示する際に、私のところにも見に来るようになったんです。私としてはどれだけ思い入れがあっても、劣化したシューズは処分したい気持ちもあるのですが、『もう歴史的に貴重なものだから絶対処分しないでくれ』と言われていて。傷みが進まないように温度や湿度の管理をしたりするのも大変なんすけどね(笑)。しかも実はここに並べていないスニーカーが、ここじゃない“第二会場”に置いてあるので、並べ替えたりもしたいんです」

     

    という驚きの告白によって、高見さんがここに並んでいる以上のコレクションをお持ちだということが判明。さらに高見さんは、スニーカーだけでなく、[ナイキACG]など[ナイキ]のアパレルコレクションも500着近い量を所有していることを教えてくれました。

     

    「このスニーカー棚のおかげで、高見=スニーカーと認識されるようになっているのですが、私の中では違和感があって。[ナイキ]に入社した当時の動機から変わっていなくて、私はあくまでもスポーツアパレル全般が好きで、スニーカーはその中のギアのひとつでしかないんです。だから今度は、このアパレルをどうやって整理して見せて行くかを考えないといけないんですよね」

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    [ナイキ]アパレルのコレクションも推計500着ほどはコレクション。現在ディスプレイ方法も検討中。

     

     

    高見さんが[ナイキ]に入社して以降、大きく変化を遂げたスニーカーマーケット。これだけのスニーカーを所有し、それぞれに対する思い入れも持ちながらも、高見さんの温度感は変わりません。

     

    「今のスニーカーの加熱した状況は2015年くらいからだと思いますが、私は『わあ、すごいな』と思いながら遠目で見ている感じです。実は私が好きなのは、インラインモデルなんです。そのモデルを作る上でのピュアな思想が詰まっているし、コラボや限定モデルってその“雑音”がやかましい時もあるんですよ。何ならコラボや販路限定モデルの方が、インラインよりも数量多かったりしますから。実はインラインの方がレアモデル、なんです(笑)」

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    Profile

    高見薫(たかみ かおる)

    新潟県生まれ・千葉県育ち。1991年にナイキジャパンに入社。アパレルセールスを経て、[ナイキ]の原宿周辺のショップとのリレーション構築や、1996年のナイキショップの立ち上げなど、数々のプロジェクトに携わる。25年間勤めたナイキジャパンを2016年に退社。2018年からデッカーズジャパンに入社し、[UGG®]ブランドのセールスを手掛けている。

     

    Instagram : @kaorutakami
    https://www.instagram.com/kaorutakami

    Creative Staff

    Interview & Text : Yukihisa Takei(HIGHVISION)
    Photography : TAWARA(magNese)

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