
「グランジファッション」 -普段着という革新-
Trend Time Machine
「トレンドは廻る」ということはよく言われていて、それはだいたい20年の周期らしい。現在のトレンドも、実は20年くらい前に流行っていたものがアップデートされたものが多いわけだけど、じゃあアップデート前はどんな感じだったんだろう。 当時を知るベテランのスタッフに、当時を知らないスタッフが話を聞きに行ってみた。
今回のテーマは「グランジファッション」。

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MAJIMA
渋谷店 / バイヤー
アメリカ古着の文化に触れ、ブランド古着にも興味を持ち、入社。入社後は様々なブランドに接してきました。古着好きで、古いものの価値を大切にしています。N.HOOLYWOOD、Maison Margielaなどを長く着用しています。 「お客様に寄り添った対応」がモットーです。 自分も楽しみながら、その店、その人に対応してもらいたいというお客様をふやせるように接客いたします。是非一度ご来店ください。
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KISHIWADA
新宿店 / バイヤー
ファッションとそれにまつわるカルチャーが好きで、たくさんのブランドを見て袖を通してきました。モード、カジュアル、ストリート、アウトドアなどジャンルにとらわれず、楽しくお客様とお話しできればと思います。
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KADOSAKI
RAGTAG Online編集チーム
1993年生まれ。RAGTAG Onlineのコンテンツをいろいろ作っている。サブカルチャーとアートを愛してやまない。エディ・スリマンのCELINEに感化されて髪を伸ばしている。
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日常着を着こなすこと
KADOSAKI(以下KD): 誕生から息が長いスタイルだとは思いますが、近年「グランジファッション」に影響されているであろうスタイルを、ストリートやコレクションでよく見かけます。でも僕や僕よりもっと下の世代は、「グランジだなぁ」というなんとなくのイメージはありますが、そもそも“グランジ”がなんなのか、僕も含めてあまりわかっていない人が多いのではとも思います。なのでまず基礎知識の部分から聞いてもいいですか?
KISHIWADA(以下KS):NIRVANA(ニルヴァーナ)]というバンドが91年にデビューして大ヒットして、アメリカで社会現象を起こしてからまず音楽ジャンルとしての“グランジ”が広まっていきました。グランジの象徴でもあった[ニルヴァーナ]のカート・コバーンが1994年に亡くなってから、だんだん追悼の写真なんかを見るようになってきて、日本のメディアでも広く取り上げられるようになりましたね。
MAJIMA(以下M):そもそもはそうしたグランジロックという音楽ジャンルのミュージシャンたちのファッションを、後々“グランジファッション”と呼ぶようになった、というのがファッションカテゴリーとしてのはじまりです。彼らはそれまでの派手な“ロック”の商業的なやり方が気に入らなくて、服装もくたびれた日常着を着て活動していて、それが“かっこいい”と評価されていったんです。

KD : 当時はまだそもそもファッションスタイルとしては名前がついていなくて、後々カート・コバーンたちやフォロワーたちのスタイルがそう定義づけられていったわけですね。ひとつのファッションカテゴリーが生まれる前夜だ。
M : それまでのファッションブランドというとこう、きらびやかな感じだったのが、前回の古着ミックスの話でも出てきましたが、アメリカのほんとの日常着がファッションアイテムとして注目されてきて、それをどうおしゃれに着こなすか、という流れが90年代にありました。自分も別に「グランジを着よう」と思っていたわけではないですが、その後アイコンとなる古着のネルシャツやデニムはそのころ着ていました。着飾るんじゃなくて、日常着をどう着るか、ということを考えておしゃれしていた、ような気がします。
KD : “グランジファッション”をしていたわけではないのに、考え方の部分は近いものがあったのは興味深いですね。バブルも終わった日本のムードが不思議とグランジとリンクしていて、それが人気になった理由の一つなのかもしれないですね
。
M : あとは「誰が着るか」が強い影響力のあった時代だったので、カリスマ的な人物のスタイルがトレンドになるということがよくありましたね。

多くのデザイナーに与えた影響
KS : [ニルヴァーナ]が出たころはまだ中高生くらいだったから、その後僕が“グランジファッション”をはっきり認識したのが、[NUMBER (N)INE(ナンバーナイン)]が“カート期”と呼ばれるコレクションを出したころですね。
KD : いよいよデザイナーズブランドが“グランジ”をテーマに置いたものを作り始めたわけですね。
KS : 国内だと最初は[UNDERCOVER(アンダーカバー)]になるかな。カート・コバーンが亡くなった後の95年に追悼のコレクションを発表しました。チャールズ・ピーターソンが撮影した有名な写真がポスターになっていますね。

アンダーカバー チャールズピーターソン ポスター (スタッフ私物)

その後のアイテムにも影響が感じられるものが。 UNDERCOVERISM ¥16,000
KD : ここまで大々的に一人の人物にフォーカスしてコレクションを発表するとは…それほどの強い影響をファッション界にも与えていたということですね。
M : そのもう少し後、2003年に[ナンバーナイン]がカート・コバーンをテーマにしたコレクションを発表しました。それはもうカートの姿がはっきり思い浮かぶようなコレクションで、デザイナー宮下貴裕氏のカートへの愛が見て取れます。自分はちょうどそのころ[ナンバーナイン]が好きだったので、このときのアイテムも着ていました。このころの[ナンバーナイン]は、ロック・アメカジから、ヒッピー文化に基づいた雰囲気のコレクションを出していて、グランジもその中の一つなんですが、自分が好きなアメカジ古着系のアイテムとも相性がよかったのを覚えています。

2008年のアイテムだが、“日常着”な雰囲気を感じることができる。 NUMBER (N)INE ¥11,400
KS:[ナンバーナイン]は成功の最中、商業的になりすぎたり、自分の表現したい事に制限がかかることなどが原因で、ブランドを人気絶頂の中“解散”してしまうんですが、これは商業主義的なやり方に反抗していたカート・コバーンが、バンドがブレイクすることに苦悩して命を絶ってしまったという事ともリンクします。見た目のかっこよさだけじゃなくて、やっぱりマインドの部分がグランジの肝なので、こんなにもファッションシーンにも影響を与えたんだと思います。
KD: KISHIWADAさんはこのころどんなブランドを着ていましたか?
KS: 自分も[Maison Margiela(メゾンマルジェラ)]などの、好きだった古着と相性がいいブランドを選んでいましたね。
KD:[マルジェラ]はグランジファッションの先駆的なブランドとも言われていますが、どういうところがなんでしょう
KS: ボロボロのニットやダメージデニム、古着のリメイクなどをコレクションで発表していたので、そういう部分が“グランジ”と評されていますね。またマルタン・マルジェラや[COMME des GARCONS(コムデギャルソン)]の川久保玲氏は、それまでファッションがお金持ちのやることだったりしたその体制を打ち壊すようなコレクションを発表していて、これはパンクと評されることの方が多いし、「ニルヴァーナ」より前の事だけど、反抗の精神性や既存の考えを壊すようなところは近いものがあると思います。

着古した古着のような加工はブランドの定番。 Maison Margiela ¥7,700
KD:そういう考え方はバンドの登場以前からあったんですね。それが音楽シーンからさらに広がりを見せて、一人のカリスマの姿がより多くの人に影響を与えていったということか…。
M: 自分も着飾るファッションをするタイプではなかったけど、自分の生き方とかスタイルとかを、着てるものだけじゃなくて内面的なところを見てほしいと思っていた、かなぁとなんとなく思い出します(笑)当時“グランジ”に共感していたクリエイターの多くも、やっぱりそういうマインドの部分にこそ感じるものがあったんだと思いますよ。
受け継がれるグランジの精神
KD:では最後になりますが、いまグランジはストリートやコレクションでも再燃しているように感じます。現代のグランジスタイルについてどう感じていますか。
KS: やっぱり「新しいグランジ」だと感じますね。そもそもグランジってファッションとして完成してから、ファッション史の中に細く長く生き続けているもので、そこにどんどんいろんな要素がミックスされていて、進化していってるなと。

様々なブランドが“グランジ”を感じられるアイテムをリリースしている。 左 AMIRI ¥57,700 右 MARKAWARE ¥23,100
M:自分なりにアイテムを着崩して、ミックスして、当時のスタイルから進化させて着こなしていくといのは、今っぽい表現の仕方だと思いますし、“グランジ”は自分のありのままの姿を表現することが重要な部分だと思うので、いろんなアイテムがある中でとにかく自分らしく着こなしていくことがかっこいいのかなと思います。
KD:自分のありのままに着こなすというマインドは、ファッションにおいてとっても大切なものですね。スタイルとしてのグランジだけでなく、マインドの部分こそこれからも受け継がれていってほしいなと、お話しを聞く中で感じました。貴重なお話をありがとうございました!
KS: 記憶の引き出しを開けられてよかったです、こちらこそありがとうございました。
M:懐かしい話ができました。ありがとうございました。
