あの人が考える“ファッションは繰り返す?”<br>[大平かりん]

あの人が考える“ファッションは繰り返す?”
[大平かりん]

COLUMN for FF Magazine

COLUMN

2023.10.27

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    ムーブメント再熱にまぎれた、 控えめながら確かな意志

     

    最近仕事の都合で、週に3回ほど渋谷109に足を運んでいる。ちびT×ワイドパンツ、ミニスカート、厚底ブーツ、ルーズソックスetc. Y2Kの復活とともに、中・高校生時代に慣れ親しんできたファッションが再びトレンドとなって戻ってきてた。自分がリアルに着ていた服や、夢中になっていたカルチャーがリバイバルするのは、30代後半の私にとってはじめての経験である。

     

    [ジャン・ポール・ゴルチエ]も、トレンドサイクル20年ルールの産物かもしれない。現在、ゴルチエのヘリテージに敬意を払いながらゲストコラボレーターやインハウスのチームが、現代のスピリットを取り入れたコレクションを制作している。ノスタルジックな雰囲気もあり、かつ未来的でとても新鮮だ。

     

    Y2Kやゴルチエであれ、女性が女性であることを誇り、周りの視線に臆さない強いスタイルが、今のZ世代の自己表現を後押ししていることは、現役世代としては大変誇らしいことだ。さらに2023 年においては、K-POP、中国カルチャー、ジェンダーレスなどのグローバルなインスピレーションやSNSの影響により、特定のファッションスタイルが世界中に驚異的な速さで広まっていくのも興味深い。懐古主義的な楽しみを追求する30代から40代の世代と、自己のアイディンティティを模索する若い世代、この2つの文脈がファッショントレンドの循環を生み出し、最新のカルチャーを押し上げている。

     

    トレンドサイクルとは本質的にノスタルジックなもので、今はただひたすら過去を繰り返しているのかもしれない。実際のところ、過去(ノスタルジー)を繰り返すことは、現在に従事するよりも簡単であり効率が良い。作り手は完全にゼロから制作する必要がなく、時間、お金、労力を節約できる。元々ファンがいるものであれば、再び人気が出る可能性も高い。消費する側もある程度の満足度は保証され、ハズれを引かずに済むだろう。

     

    同様の現象は映画、ドラマ、音楽などあらゆる分野で起こっている。映画業界では、ますます過去の作品の続編やリメイクに力を入れていること(それらは興行収入上位を占める)。ドラマも人気作品のスピンオフで溢れているし、音楽もチャートの上位は年々少数のプレイヤーに支配されている。世の中の多様性に反して、ファッションならびにカルチャーが同質化の方向に向かっていることは見逃せない。繰り返されるファッションの快適さと窮屈さ。両者の摩擦を感じた時、私は街に出て新しい服を探す。セレクトショップで、なにか新しいモノを提示する気鋭デザイナーの作品を手に取る。現代を生きる人間の好奇心、視線、熱意が隅々まで行き渡っている服はトレンドから私を解放してくれる。デザイナーズの古着屋にも足を運ぶ。様々な年代のクリエイティブに触れてカンと好奇心で服を買う。要は、トレンドへの逆張り。オフトレンドのアイテムが数年後、時代の顔に戻っているかもしれない。

     

    買い物はある意味で、自分の現代社会へのスタンスの表明だ。全体が同じスタイルに収斂しているときこそ、大胆で勇気のあるファッションラバーが新たなインスピレーションを世の中に与えられると信じている。

     

    (この記事はRAGTAG発行の「FF Magazine Issue : 01」の抜粋記事です)

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    Profile

    大平かりん(おおひら かりん)

    ファッション雑誌の編集者を経て、現在はIT企業社員と[TARO HORIUCHI]のディレクターを務める。「365日同じコーディネートはしません?」をモットーに、インスタグラムで更新している私服にはファンが多い

     

    Instagram : @ko365d
    https://www.instagram.com/ko365d

    Creative Staff

    Illustration : Hisayuki Hiranuma

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