新しいことが正義とされる中で、古いものが輝き出す <br/>Interview with 森永 邦彦

新しいことが正義とされる中で、古いものが輝き出す
Interview with 森永 邦彦

ファッションクリエイターが考える“繰り返すファッション”
for FF Magazine

FEATURE

2023.10.19

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    コンセプチュアルなコレクションテーマとデザイン、最新のテクノロジーを取り入れた進取性でも知られる[アンリアレイジ]。今年ブランド設立20周年の節目を迎え、東京・青山のスパイラルビルで「A=Z」と題した記念展覧会も開催されました。“ファッションのサイクルは20年周期”とも言われる中、そのブランド名に“AGE=時代”を込めたデザイナーの森永邦彦さんは、今の時代に何を感じているのかをお聞きしました。

    (この記事はRAGTAG発行の「FF Magazine Issue : 01」の抜粋記事です)

    20周年と20年周期

    ―「 ファッションは20年周期で繰り返す」と一般に語られる時もありますが、[アンリアレイジ]もちょうど20周年を迎えた今、改めて何か感じることはありますか?

     

    森永 : ちょうど先日20周年の展覧会(「AZ」)があって、自分のブランドがやってきたことを振り返る機会がありました。立ち上げた頃から20年経った現在地では、ブランドのポジションも変わっていますし、表現したいことも原点から遠く離れている印象でした。でも総括してみると“螺旋的”だと思いました。その時々で自分の視点や現在地が違うので、アウトプットは全然違うものに変わってはいますが、無意識にテーマを何周もしているんです。ただしそれは同じ場所ではなくて、繰り返してはいますが、立体で見ると地点が変わっているという印象があります。

     

    ―実は(前のページの)栗野宏文さんも同じようなことをおっしゃっていました。“円ではなく、螺旋だ”と。このテーマを考える上での答えのひとつかもしれないですね。

     

    森永 : そうなのですね。アンリアレイジは先日青山の「スパイラルガーデン」で展覧会をしたので、螺旋のことばかり考えていたせいもあります(笑)。例えば[アンリアレイジ]でもパッチワークデザインの服は20年ずっと続けていますが、その中で深く潜ったり、上昇しているものがあります。どれも表面的には変化はしていますが、芯にあるクリエイションは全く変わっていないんです。モードの流れの中だと、新しいこと、先に行くことが正義とされますが、その中でも何か引きずるものがあったり、積み重ねられるものもあります。同じことをやる中に、もしかしたらとても新しい発見があるんじゃないかと感じています。

     

    ―一方で「常に前に進みたい、前には戻りたくない」という気持ちも強くあるのですか?

     

    森永 : それはもちろんあります。展覧会では、∞マークをかたどったロゴを作ったのですが、Aから始めてZに行く中で、AとZの距離はどんどん離れて行きますが、途中で逆戻りを始めるんです。やがて、到着点であったZが、始まりのAと重なり、そこからまた次の20周年と20年周期周回に入っていく。この螺旋が何回も繰り返されて、だんだんとAとZの交点が、濃く強くなっていくというのが、20年やってわかったことです。

    “尋常ではない”ファッションのスピード感

    ―ブランドを開始した当時、20年後の姿を思い浮かべていらっしゃいましたか?

     

    森永 : はい。思い描いていた時は、20年後のブランドの姿は、遠く離れた階段を上がりきったところにあるものだと思っていましたが、今振り返るとそうではなかった。何度も何度も、円環の中を繰り返し進んでいました。表現が難しいのですが、ある程度既視感みたいなものや、みんなが知っているというイメージの中でこそ、新しいものが生まれるのかもしれないとも思っています。

     

    ―それは、誰も全く見たことのないアイデアは人に刺さりにくいということですか?

     

    森永 : うーん……というよりも、“振り返るとあの時は新しかった”、となるのがファッションかもしれないと思っています。それこそ[アンリアレイジ]の紫外線で色が変わる服は、10年前に東京で発表しているのですが、つい最近にビヨンセのワールドツアーの衣装に使われました。10年前も新しさでは負けていなかったと思いますが、それも10年続けてみないと、あの当時の新しさが立証されない、そこには時間が必要だったと感じます。

     

    ―あの紫外線で変化する服も技術的にも格段に上がって、即応で色が変わるようになりましたよね。

     

    森永 : 何か新しいことを生み出して、それを繰り返して進化させていくことは、本当はすごく大事なんですけど、どうしてもファッションはそれが難しい世界で。一つ一つをその場に置き去りにしていくような感覚に対して、抗っていたいという気持ちがあります。

     

    ―コレクションの度に新しいことを提示するファッションの宿命もありますよね。

     

    森永 : 異業種と一緒に仕事をして改めて気づいたことは、ファッション業界の尋常じゃないスピードです。半年、ワンシーズンで、新作を発表するというのは、新しいものの開発速度と合っていなくて。技術関連は通常2年、3年かけるのが普通ですし、本来同じことを何回か繰り返さないと、その進化は見込めないと思っています。

     

    ―やはりファッションは相当スピードが早い業界なのですね。

     

    森永 : はい、どの業界の人と話しても言われます。例えば音楽もそうですし。「半年に1回のペースでアルバムなんて出せないよ」と(笑)。

     

    ―確かにミュージシャンなら半年に1回、一度も休まずにアルバムを出しているようなものですね。そういう中で、ファッションデザイナーは自分のアイデアを毎回炸裂させているわけですよね。

     

    森永 : “流行”という字の如く、生み出したものが全て流れて行くんですけど、その流れの奥の方には留まるものが必ずあって、そこを追い求めていくことがファッションブランドでもあるし、ファッションビジネスでもあると思っています。ブランドの“核”が見えてくるためには、その上でたくさんの上澄みが流れて行くイメージです。

     

    ―ブランドとして20年が経ってくると、自分のクリエイションが他にも影響を及しているとか、他のデザイナーを刺激しているなと感じる時はありますか?

     

    森永 : 実際にいくつかあります。過去の「○△□(マルサンカクシカク)」のコレクションや、低解像度をテーマにしたコレクションなどに類似しているものはあって、正直「あれ……?」と思うものもありました。実際(インスタグラムの)「ダイエットプラダ(@diet_prada)」でもアンリアレイジとの類似性が指摘されていたり、炎上していたものもあります。

     

    ―そこに関してはやはり複雑な心境ですか?

     

    森永 : 思うところはありつつ、そういうものだろうなと自分を納得させる部分もあり……複雑です(笑)。

     

    ―森永さんご本人の気持ちは別にして、日本人デザイナーのアイデアが他に影響を与えていると考えると、どこか誇らしい気もします。

     

    森永 : 確かに今は感謝もあります。時間が経つとそう思えてきます。

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    1997年のビッグ・バンと“AGE”

    ―森永さんはファッションを楽しむ一人の人間として、ファッションは繰り返していると感じることはありますか?

     

    森永 : あります。先日パリに行った時に「1997 – Fashion Big Bang」という、1997年に同時多発的に、今のファッションの源が生まれていることを示した展覧会がパリのガリエラ宮でやっていて、観に行ったんです。

     

    ―そんな面白そうな展覧会があったのですね。

     

    森永 : 僕はそれを観て、改めて26年も前の1997年が、2023年の次に訪れる未来の年のように新しく感じてしまって。その年は[コム デ ギャルソン]の“Body Meets Dress, Dress Meets Body”が発表されて、[マルタン・マルジェラ]はストックマンボディのトルソーを服にしたコレクションを発表しています。パリの「コレット」がオープンして、[リーボック]の“ポンプフューリー”や“G-SHOCK”モードの中に取り入れる提案をして、[フェンディ]はバケットバッグを発表して、イットバックというワードが生まれて。その頃[ルイ・ヴィトン]はマーク・ジェイコブス、[グッチ]はトム・フォード、[ジバンシイ]はアレキサンダー・マックイーン、[ディオール]がジョン・ガリアーノで、[クロエ]がステラ・マッカートニー、[エルメス]がマルタン・マルジェラを起用していて、同時期に[ラフ・シモンズ][ヘルムートラング]、[フセイン・チャラヤン]も出てきていたり。アップルからはiMacが出てきた年でもあるんですよ。もう本当に凄まじい一年だと思いました。

     

    ―まさにビッグバンですね。でもそれが森永さんにとっては新しく見えたわけですね。

     

    森永 : とても新しく見えました。自分が通ってきた原風景のはずなんですが、未来を感じました。

     

    ―時間が経ってまた新鮮に見えるのも、パワーのあるファッションの現象なのかもしれないですね。

     

    森永 : 2019年に渋谷パルコがリニューアルオープンした時に、デジタルなファッションショー映像をつくりました。11月のオープンで春夏でも秋冬でもない時期だったので、「このタイミングでしかできないものをやろう」と、今までの[アンリアレイジ]の過去の洋服を集めて、それをスタイリストのTEPPEIくんにコーディネートで入ってもらって、時を超えて、年代をミックスしたルックを作って発表しました。それが“AGE”というテーマのショーです。

     

    ―年代もバラバラでショーをやるというのは面白いですね。森永さんにとって、“時の流れ”というのは大きなものですか?

     

    森永 : 今は一番大きいかもしれないです、アンリアレイジにとって。もともと[アンリアレイジ]って、ブランド名にも“REAL=日常とUNREAL=非日常”の2つの世界を入れていて、その二極のテーマで語られることが多いんですが、最近は“AN REAL AGE”の“AGE(=時代、世代)”の部分が大きくなってきていて。“時”があるからこそ、日常と非日常の境目も変わってきますし。今は当たり前とされていない洋服の価値観も、時代が変われば、当たり前に変わると信じています。時が服に及ぼす影響はとても大きいです。時があってこそ、自分たちがやってきた正しさがはじめて理解できるというか。

     

    ―先ほどの紫外線の服のように、過去のアイデアが時間を経て伝わるみたいなことですね。

     

    森永 : そうです。黒の衝撃と呼ばれるコレクションもそうだと思います。最初にパリに出た頃の批判のされ方とかを考えると、あれだけ非常識とされたものが、時代が変わった現代では常識に変わっていますよね。それだけファッションが時代を“変えた”ということだともいえます。それには1回だけじゃなくて、その美意識を貫いて、何回もやり続ける必要がありますし、そこでは必然的に時間も作用していると思います。

     

    ―確かに“色の変わる服”も、あるシーズンだけで終わっていたら突飛かもしれないですが、今は着ていても「あ、それ変わるやつだね」って、普通に言えちゃう世の中に変わりつつありますよね。

    “新しい”はもう古い?

    ―森永さんが考えるファッションの自由さって、どういうところだと思われますか?

     

    森永 : ファッションの世界では新しいものが正義とされ、新しいものを生み出すのが大前提ですが、それを大きな時間軸の中で考えると、“今は光が当たっていない、価値のないもの”が輝いていく瞬間こそがファッションの醍醐味だと思っていて。メジャーなもの、マジョリティに対する反骨も、自分だけしかわかっていない価値観が突然、ファッションとして輝き出すことってありますよね。

     

    ―ありますね。

     

    森永 : 新しいものが正義な中で、その真逆にあるオールドなものも、時間軸の中では見たこともない新しいファッションになっていくという、そのくらいファッションには“自由さ”があると思います。新しい / 古いの境界が無くなって曖昧になること、それこそ本当の自由だと感じるんです。

     

    ―それでもデザイナーは新しいものを作り続けるという。でもこれからの時代はそうなっていくのかもしれないですね。特に今の若い世代の人は、いちいち「90年代ファッション」だと思って買っていないかもしれないです。森永さんがおっしゃるように、新しいものが前提じゃなくなる時代がすぐそこまで来ているのかもしれないですね。

     

    森永 : いずれ“新しい”っていう言葉自体が古くなるんだと思います。「まだ“新しい”とか言ってるの?」と。

     

    (この記事はRAGTAG発行の「FF Magazine Issue : 01」の抜粋記事です)

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    Profile

    森永 邦彦(もりなが くにひこ)

    アンリアレイジ デザイナー
    1980年、東京都国立市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。2003年に[アンリアレイジ]を設立。2005年東京コレクションデビュー。2014年よりパリコレクションへ進出。2019年 LVMH PRIZEのファイナリストに選出、同年第37回毎日ファッション大賞受賞。コンセプチュアルなコレクションテーマと、新しいデザインやテクノロジーを取り入れる姿勢には世界が注目している。2023年9月8日からパルコのショップがリニューアルオープンし、展覧会も開催予定。

    HP : https://www.anrealage.com
    Instagram : @anrealage_official
    https://www.instagram.com/anrealage_official

    Creative Staff

    Interview & text : Yukihisa Takei(HIGHVISION)
    Photo : Yasuyuki Takaki

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